メモ:37章
[和訳]
[目次]
[前章]
[次章]
37章 草刈る農夫、その名は死
- The Reaper Whose Name Is Death
-
Henry W. Longfellow, "The Reaper and the Flowers", Stanza 1, (1839)
[Annotated AGG,p.379]
[Familiar Quot. Archive]
。
刈り入れは1つの時代の終わりを意味する
[西洋シンボル事典]
。
[マタイ伝,013:039]
The enemy that sowed them is the devil; the harvest is the end
of the world; and the reapers are the angels.
ここではアンの娘時代の終わり、大人の生活の開始を意味するのだろう。
直接関連するか分からないが、William Wordsworthに"The Solitary Reaper"という詩がある。
ハイランドの乙女が歌を歌いながら一人草を刈る情景を歌ったもので、
アンの子供時代の収穫を歌っているようにも読める。
William Wordsworth, "The Solitary Reaper", St. 3
[Works of Wordsworth,p.289]
Will no one tell me what she sings! --
Perhaps the plaintive numbers flow
For old, unhappy, far-off things,
And battles long ago:
Or is it some more humble lay,
Familiar matter of to-day?
Some natural sorrow, loss, or pain,
That has been, and may be again?
- Anne dropped her flowers
-
[Annotated AGG,p.437]
によると、スイセンを落としたのは無邪気な自己陶酔を止めることを意味する。
マシューの死は子供時代の完全な終焉と、激動の大人時代の始まりの契機となる。
ただ、しばらくしてからまたスイセンの姿・香りを愛でるようになるので、
落としたスイセンが意味するのは、子供時代の自己陶酔の脱却ではなく、
アンが人生を享楽するのを一旦止めることだろう。
一方、narcissusに似た語narcosisは昏睡の意味があり、語源は同じ。
white narcissusでマシューの血の気が引いて真っ青になって昏倒する意味にもとれる。
アンがスイセンにしばらくのあいだ耐えられなくなるのも、この意味でも理解できる。
他に、narcissusではないが、ラッパスイセン(daffodil)が12章のバリーの庭にある。
これと同じ語源なのが、極楽に咲く不死の花asphodel
[リーダーズ+]
。これはホメロスのオデュッセアス
[オデュッセイア,下,p.299]
に登場する。これなら、マシューの死を暗示していることになる。
- she turned sick and pallid
-
AGG(J):36章
の"Anne felt one sickening pang of defeat and disappointment"と似た感覚だろう。
- there beheld the seal of the Great Presence
-
AGG(J):36章
の、"that cold, sanctifying touch has been laid upon it"、
あるいは37章の"the white majesty of death had fallen on him"のこと。
AIs(J)のメモ:11章
冒頭部にあるような、選ばれた民の額に押された神の刻印
[黙示録,007:003]
のことだろうと思う。
ここでは、マシューが亡くなって、聖なるものとして生者から分けられたこと。
- set him apart as one crowned
- 聖書で当てはまりそうなものを探してみた。
マシューのキーワードである信仰(faith,
AGG(J):24章
の活人画を参照)に関係するものも見つかる。死ぬまで働いて、
(アンへの)信仰を持ち続けたマシューに関係がありそうなのは、次の2つ。
[テモテ書(2),004:007-008]
I have fought a good fight, I have finished my course, I have
kept the faith:
私は良く戦った。我が道を歩み終えた。
信仰を持ち続けた。
Henceforth there is laid up for me a crown of righteousness,
which the Lord, the righteous judge, shall give me at that
day: and not to me only, but unto all them also that love his
appearing.
これからは、正義の冠が用意されている。
正義の裁き手である神が、かの日に私に授けてくれる冠だ。
そしてそれは、私だけでなく、神の出現を欲する者すべてに与えられるのだ。
[ヤコブ書,001:012]
Blessed is the man that endureth temptation: for when he is
tried, he shall receive the crown of life, which the Lord hath
promised to them that love him.
誘惑に耐える者は幸いである。その者は
身を削り努めたのだから、魂の冠を受け取るだろうから。その冠は
神を愛する者に神が約束したものなのだ。
- The Barrys and Mrs. Lynde stayed with them that night.
- カスバート家は近くに親戚がいないせいか、隣近所に助けを求めるしかない。
もしバリー夫人と仲が悪いままだったら、レイチェルだけではかなり寂しくなったろう。
- she could comprehend better than Anne's tearless agony
-
[Alpine Path,p.16]
によると、LMMは母が亡くなった時まだ幼く(21ヶ月)、悲しみを感じなかったと書いている。
I did not feel any sorrow, for I knew nothing of what
it all meant. I was only vaguly troubled. Why was Mother
so still? And why was Father crying?
これはマシューの死で泣けないアンの姿に近いと思う。
またマシューやルビー・ギリスの葬式のどこか覚めた(語りの)視点は、この幼児の記憶の影響ではないか?
LMMの母のイメージについては、
AIs(J):14章
のルビーの姿を参照のこと。
- It--it--isn't right to cry so.
- マシューが亡くなって悲しいが、それは神の望んだこと。
だから悲しみ過ぎるのは神の意志に反する、ということだろうか。
- she's outside of it
- outsiderとしてのダイアナは、髪を染めた時にも現われた。
その他の"It's our sorrow"等の表現を見ても、
アンとマリラが強い孤立感(と無力感)を感じていることが分かる。
- Oh, Anne
- マリラが"Oh"というのはめずらしい。マリラの"Oh"は
AGG(J):37章
,
AGG(J):38章
に集中している。
- even at Green Gables affairs slipped into their old groove
and work was done and duties fulfilled with regularity
- grooveの登場は2回目で、学校のコンサート後の子供達と似ている。grooveは固定化した生活。
- they COULD go on in the old way without Matthew.
- 32章、試験に落ちても日はまた登る、にも似ている。
- life still called to her with many insistent voices.
- いろいろな声が呼ぶのは何度もでてくる。擬人化は中世的(あるいは原始的?)な世界観。
- I think we all experience the same thing.
- Anne of Avonlea 15章では、アラン夫人も子供を亡くすことで、自分の言葉通りの経験をすることになる。
- white Scotch rosebush
- scotchには終わらせる意味がある。
諺で"Gather roses while you may"というのがあるから、バラは人生の意味もある。
終わってしまったマシューの人生のことか?
- the souls of all those little white roses
- 花の魂は何度もでてくる。LMMにとって花は魂を持ち、人に近い存在。
- Anne did not reply
-
アンはアラン夫人から、今の状況で大学に行くことに反対されるのは、たぶん予想していた。
正面切って反対されたら、それなりに反論できたかもしれないが、
自分自身が抱える不安材料について言った直後、
防御姿勢をとっていないところでさらっと言われて、かなりショックだったはず。ノックアウト負けである。
これもパルティア人の矢(
AGG(J):9章
)かもしれない。
この時点ではまだ大学に行くつもりだったので、
アラン夫人にマシューの墓にスコッチ・ローズを植えたと言ったのは、
このままアヴォンリーを離れてしまうやましさに対して、
無意識に言い訳する気持ちもあったのかもしれない。
- Marilla was sitting on the front door-steps
- マリラが石段に座っていたのはアンを待っていたから。
それまでなら、台所の窓からアンが帰るのを見ていただろう。
ハンカチののりづけの思い出などの話題で、マリラはそれまで落ち込むだけで元気がなかったアンが、
マリラを励まそうとしていることに気づいたはず。アラン夫人に言われたことをさっそく実践している。
ところで正面の戸口の上り段に座っているのは、世間の荒波にアンとともにさらされる意味?
それなら、一緒に座っているマリラとアンは対等ということになる。
- The door was open behind them
- 開いたドアは幸福が逃げていく戸口か?迫り来る終末が口をあけている感じ?
幸福な生活が既に過ぎ去った意味にも取れる。解釈はいろいろできるが決め手にかける。
ドアが災厄を防ぐものなら、
グリーン・ゲイブルズの終わりを予告するほら貝が閉まるのを妨げていたのも当然か?
- a big pink conch shell with hints of sea sunsets in its smooth inner convolutions
- 巻貝は原始的な笛で、信仰・祭儀等に用いられた
[ジーニアス英和]
。マシューの死を告げるほら貝だろうか。
日没はマシューの死と幸福の終焉。貝の内側の渦巻き(convolutions)は、
(マシューの死、資産喪失、マリラの失明のような不幸に)巻き込まれる、
あるいは不幸が何度もくりかえされるという意味か?
全体としては、マシューの死でグリーン・ゲイブルズに終局が近づいていることを意味するのだと思う。
- pale-yellow honeysuckle
- ニオイニンドウ(スイカズラ科)。花言葉は「愛の絆」
[ジーニアス英和]
。pale-yellowは元気の無いアンの顔色?
ニオイニンドウを髪に飾ったのは、マシューとマリラとの愛の絆を持ちつづける意味だろう。
- the delicious hint of fragrance, as some aerial benediction
- hintは少し前にも使われる。この2つのhintは、裏の意味のマーカーか?
祝福(benediction)は、愛の絆を持ちつづけるアンへの祝福の意味だろう。
- Martin will have to drive me in
- 銀行が破産してもマーティンはグリーン・ゲイブルズで働いている。
畑仕事など女手では大変な作業があるからだろうが、
雇い人の報酬には現金払いでなく作物などの現物払いにしていたのだろうか?
- a heroic effort
-
AA(J):12章
でも、語りで"a Herculean effort"を使っているので、
大袈裟な言葉を使う癖は、実は少ししか改善されていないのではないか?
- Josie is a Pye
-
AIs(J):2章
の語り、"Sloanes were Sloanes"と同じ。
- the use of thistles
-
苞(ほう)が悪天候の前に閉じるので、ヨーロッパでは門口に植えて天候予知に使った
[ジーニアス英和]
とのこと。このことだろうか?根が食用や薬になる種類もある
[広辞苑]
。
[Dic. Phrase Fable]
によると、わき腹のさしこみなど、鋭い痛みを直す薬にしたらしい。
他にも、
[Dic. Phrase Fable]
によると、デーン人がスコットランド人を夜襲した際に、アザミを踏んで声をあげたため夜襲が発覚したのが、
スコットランドの章になった由来とのことなので、そういう用途で役に立つ意味か?
天気予報や薬なら使えそうだが、これは一般家庭向きではない。
- Gilbert Blythe is going to teach too, isn't he?
-
ギルバートの話題はダイアナと違ってあっさり聞ける話題だったのだろう。
ギルバート/ジョン・ブライスのことは日曜日から気が付いていたので、
この話はアンの態度を柔らかく非難し、改めるよう諭したのだろうか?
あまり諭す雰囲気がないから、そうではない?
- We used to be real good friends, he and I.
- レイチェルはマリラの子供の頃を知っているらしいが、レイチェルの発言からすると、
マリラは子供の頃から大人びていた(あまり子供っぽくなかった)ようである。
マリラの思い出によれば、あまり可愛いともいえなかったらしい。
ジョンにしてもギルバートにしても、ブライス家の男は変わり者が好きなのか?
- Anne looked up with swift interest
- ギルバートの話になると、目をそらして下を向いてしまうらしい。
- So you've had a bit of romance in your life, too
- この堅物のマリラが、という意外な気持ちと、
いつも自分のロマンスを馬鹿にしていたのにと、ちょっとだけなじる気持ちもあったかもしれない。
- Everybody has forgot about me and John.
- うがった見方をすると、この頃はみんなマリア(マリラ)もヨハネ(ジョン)も忘れている、と読める。
キリスト教に対する批判かもしれない。
[Annotated AGG.p.23]
によると、LMMの前の世代の作家達は、ビクトリア朝時代への不信を描くのがはやりだったらしい。
[和訳]
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osawa
更新日:
2002/12/07