メモ:9章

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9章 レイチェル・リンド夫人、驚愕

A severe and unseasonable attack of grippe had confined that good lady to her house
[Man Environment Desease,p.184, p.188] によると、1889年にインフルエンザ(Russian influenza)が世界的に流行した。 リンド夫人の場合は季節はずれなので、これではなさそうである。
fir coppice
モミの薪炭林 [リーダーズ+] 。ここのモミを薪にしていたのだろうか?
the fir boughs and tassels seemed to utter friendly speech.
tasselsは房飾りの意味。
  1. モミにツル(フジやツタの類)が巻き付いて房飾り(tassels)に見えるのか? 枝とツルが風にゆられてかさかさ音をたてている様子だと思う。
  2. newgrowth(こぶ状の異常成長)あるいはcatkin(尾状花序) [Annotated AGG,p.112]
so that good lady had an excellent chance to...
good ladyはgoodwife(女将さん)の意味 [リーダーズ+] と、良い性格の女性(1章ではworthy woman)をかけているのだろうか。
She's a real bright little thing.
レイチェルの非難に対抗して、マシューの論理をもってきたのだが、 所詮は自分の論理じゃないので、いまひとつ説得力がない。
It's a great responsibility you've taken on yourself
以下のyouはマリラとマシュー?マリラだけ? 養育に直接関わるのはマリラと簡単に推測できるので、マリラだけと解釈する。
it had never looked redder than at that moment.
髪がぼさぼさだと、髪の間を通して光が抜けやすく、かなり明るい色に見える。 だからよけい赤く見えるのでは?
Mrs. Rachel was one of those delightful and popular people...
この語りは皮肉として言っているとも考えられるし、 後から振り返ると結局リンド夫人も悪い人ではないので、 文字どおりの意味で言っているとも考えられる。
skinny and ugly
痩せてることを指摘されるのはアンにとって屈辱である。 痩せてる女性が魅力的とされるようになったのは、20世紀の中頃以降? 昔はぽっちゃりしたタイプが理想とされていた。 女性を描いた古典絵画の変遷を見ると、当時の流行が分かって面白い。
probably hadn't a spark of imagination in you
アンにとって想像力がどれほど重要な意味を持っているかわかる。 赤い髪の色を補償できないまでも、それに匹敵するほど重要なもの。
I don't care if I do hurt your feelings by saying so!
8章のI'd hate to hurt anybody's feelings, even a little bookcase girl's or a little echo girl's.に対応する。リンド夫人は本棚や木霊以下。
You have hurt mine worse than they were ever hurt before even by Mrs. Thomas' intoxicated husband.
きっと髪が赤くてニンジンみたいとか言われたんだろう。 汽車に轢かれて死んだときも全然悲しくなかった? トマス氏はMr. Thomasより、Mrs. Thomas' husbandと言われる場合が多く、 これもアンとアンに嫌われたトマス氏の距離を示しているのだろう。
exclaimed the horrified Mrs. Rachel.
9章のタイトルはここからとられている。
Anne, bursting into tears, rushed to the hall door,
3章で自分が必要とされていないことが分かった時、 "I'm going to burst into tears!"が使われている。 たぶんあえて同じ表現を使っているんだと思う。
fled through the hall and up the stairs like a whirlwind.
whirlwindは聖書に何度も登場する。 [列王記下] , [ヨブ記] [詩編] , [箴言] , [イザヤ書] , [エレミア書] , [エゼキエル書] , [ダニエル書] , [ホセア書] , [アモス書] , [ナホム書] , [ハバクク書] , [ゼカリヤ書] 。つむじ風と共に立ち去るのに関係ありそうなところはこれ [基教シンボル事典] [列王記下,2:11]
behold, there appeared a chariot of fire, and horses of fire,
and parted them both asunder; and Elijah went up by a
whirlwind into heaven.
What she did say was a surprise to herself then and ever afterwards.
  1. グリム童話?しゃべると金や宝石が出てくる妹と、蟇蛙や蛇がでてくる姉の話に似ている。
  2. [マタイ伝,012:034] に、グリムの話に似た例がある。こちらがオリジナルだろう。
    O generation of vipers, how can ye, being evil, speak good things? for out of the abundance of the heart the mouth speaketh.
    おお、蛇の子孫達よ、悪に染まっているのに、どうやって善い事を口にできるというのか? 口が語り得るのは心の中に満ちた事だけなのだから。
  3. これが一番似ている状況かもしれない。こともあろうにリンド夫人に向かってこんなことを言うとは [ヨブ記,015:013]
    That thou turnest thy spirit against God, and lettest such
    words go out of thy mouth?
Marilla could not help tacking on that last sentence
アンの登場の前に、 リンド夫人に対してマリラが必要以上にアンの弁護をしていることも合わせて、 実はマリラの行動はアンの行動をスケールダウンしたものである。
Mrs. Rachel got up with an air of offended dignity.
dignityは、先の語り "people who pride themselves on speaking their mind without fear or favor." に対応する。
It was a dreadful thing for you to lose your temper like that
話の流れから、癇癪を起こすのが一般的にまずい、と一般論を再度繰り返したのではなく、 リンド夫人の前で癇癪を起こしたのはまずいと解釈した。
She had been a very small child when she had heard one aunt say of her to another, "What a pity she is such a dark, homely little thing."
[Alpine Path,p.16] に、LMMの母親が亡くなった時の思い出が書いてある。
Women were seated around the room, and I recall two in front of me
on the sofa who were whispering to each other and looking pityingly
at Father and me.
マリラのエピソードにそっくりである。
Marilla was every day of fifty before the sting had gone out of that memory.
[日記(E)1,p.379, Jan. 7, 1910] と比較。
It is twenty five years since that day and the scar of that hurt is still on my soul.
猫の死を通じて、LMMが初めて死に接した時の辛さを評した言葉。
Marilla had a saving inspiration of punishment
マリラのinspirationはアンのimaginationと対応させているのだろう。
You can shut me up in a dark, damp dungeon inhabited by snakes and toads
Shakesperae, KING RICHARD III, ACT I, SCENE IIでLady Anneが ヘンリー6世の死を嘆き悲しむセリフに
Than I can wish to adders, spiders, toads,
Or any creeping venom'd thing that lives!
[Works of Shakespeare] がある。 地下牢はじめじめして気味の悪い生き物がいるのは常識(?) なので、特に関係はない?
ウォルター・スコットの小説にも牢獄が出てくる。 例えばSir Walter Scott, "Marmion", Canto II, Stanza XXV [Marmion,p.58] では、リンディスファーンの修道院の地下の壁に、コンスタンスが生きたまま閉じこめられる。
On those the wall was to inclose
Alive, within the tomb,
Leaving this Parthian shaft to rankle in Anne's stormy bosom
パルティアの騎兵は退却するとき後ろ向きに矢を射たことから。 [松本訳,p.484] [Annotated AGG,p.118] [リーダーズ+] 。 このことは、プルタークの「英雄伝」(Plutarch's Lives)のCRASSUSの章に出てくる。 「英雄伝」はLMMも好きで読んでいた本なので、これを念頭に置いて書いたんじゃないだろうか。 [Proj.Gutenberg] にあるArthur Hugh Clough編集, John Dryden訳の版では、
For the Parthians threw their darts as they fled,
パルティア人は退却する時に矢を射るので
という表現。矢はdartsであり、AGGにあるようなshaftではないから、 もしLMMがプルタークの「英雄伝」から取ったとしても、 別の英訳の「英雄伝」だったか、ギリシャ語の授業で原典で習ったかしたのだろう。
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osawa
更新日: 2002/12/07