メモ:5章

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5章 アンの過去の物語

Anne's History
Marilla was shrewd enough to read between the lines of Anne's history...から タイトルが取られている。
I've made up my mind to enjoy this drive.
6章のタイトルMarilla makes her Mindは、 このアンの決断に対するマリラの決断として対応しているかもしれない。
And isn't pink the most bewitching color in the world?
アンはbewitchを良い意味(5章)で使い、マリラは悪い意味(3,4章)で使っている。 たぶんマリラは、bewitchingなのはあんただろう?と思っているんじゃないだろうか? このような言葉の2重の意味を使った言葉遊びは、何度もでてくる。
said Marilla mercilessly,
4章で"She'll be casting a spell over me, too."と言っているので、 マリラはある程度身構えていると思う。それに、前段のアンの決意を聞いたあとでは、 自分が悪者の立場になったことで居心地が悪くて、 よけいに観察するような冷たい対応になっているのだろう。 アンの、相手にいちいち同意を求めるような話し方によるアピールと、 ほんとは楽しいはずないけど楽しくするよう努力するという、 本音と建前の2重構造を始めからさらけ出すこと、 昔の身の上話しでマリラの同情心をつかむことの3段攻撃で、 マリラはドライブの間追い詰められていくことになる。 ブリュエット夫人の件は最後のひと押しに過ぎないのだろう。 ちなみに子供らしい可愛らしさは、この時点のマリラには(この後も?)全く影響ないと思われる。
My life is a perfect graveyard of buried hopes.
木村和男 編: "カナダ史" [カナダ史,p.167] によると、探検隊のパリサー大尉の名前をとってパリサーの三角地帯と呼ばれた プレーリー南部の乾燥地帯(マニトバかサスカチュワン州?)は、 別名「農民の希望の墓場」と呼ばれたそうである。 もっと調べないとはっきりしないが、これから取られた可能性もある。
[Alpine Path,p.57] [日記(E)2,p.44] では、LMMが子供の時に、"The Grave"という物語を書こうとして挫折したとのこと。 この話は、メソジストの牧師の妻がカナダ各地に、亡くした子のお墓を埋葬する生涯を描いたもの。
"She buried a child in every place she lived! All Canada, from Newfoundland to Vancouver, was peppered with "her" graves."
ということなので、"perfect graveyard"はこれから取ったとも考えられる。
あるいはHerman Leardとの事が終わったころの独白か? [日記(E)1,p.227, Oct. 8, 1898]
I have had my love dream and it is dead -- or murdered -- and I have buried them it very deeply -- and now what I have to do is to forget it as utterly as may be.
a graveyard full of buried hopes is about as romantic a thing as one can imagine isn't it?
アンは(他の人も?)墓地に対して恐いものは感じていない。 アンシリーズでもアンが何度か墓地を散策するシーンが出てくる。 日本的感覚(肝試し的感覚?)では、墓地即ちお化けがでるところだと思うが、 アンにとって墓地は恐いところではなく、いろいろな人生の記念碑の 集積地のようなものらしい。 LMMの眠る共同墓地の写真 [PEI写真集] からすると、確かにそんな感じがする。 お化けの森(Haunted Wood)は嫌っているので、幽霊やお化けは嫌いらしい。
Just you stick to bald facts.
[日記(E)1,p.89, Apr. 25, 1893] と比較。
I shall stick to facts.
feeling herself called upon to inculcate a good and useful moral.
マリラは3章で行いが善かったとは言えないので、わざとらしさが光っている。 語りの、マリラや他の大人に対する皮肉なセリフは、LMMが子供のときに 感じた周りの大人の言動の不整合などを反映していると思う。 これを書いた時点でLMMは、その大人になっていたのであるが、 現在の自分の行動に対する自省もあったのではないか?
thistle
アザミ、刺があるからあまり良いイメージはないようである。 音の響きも悪いのか?(舌を噛みそうな発音?) grasp the thistle firmlyという表現もある。 一方、スコットランドの国花 [リーダーズ+] でもある。 [Dic. Phrase Fable] によると、デーン人がスコットランド人を夜襲した際に、アザミを踏んで声をあげたため夜襲が発覚したのが、 その由来とのこと。
skunk cabbage
ザゼンソウ [リーダーズ+] 。スカンクの感じが伝わらないので、造語にした。
as poor as church mice
貧乏な例え [リーダーズ+] 。なぜ教会のネズミが貧乏なんだろう?
lily of the valley
ドイツスズラン。valley lily, May lily [リーダーズ+] 。正確に訳すと雰囲気がわからないので「谷スズラン」とした。
[雅歌,002:001] に谷間の百合がでてくる。美しい女性を意味する。
I am the rose of Sharon, and the lily of the valleys.
I think it must have had honeysuckle over the parlor window and lilacs in the front yard and lilies of the valley just inside the gate.
honeysuckleは両親二人のハネムーン、lilies of the valleyは美しかっただろう母親、 lilacは不吉な花 [花の神話,p.181] なので、二人の死を意味する?
She died of fever when I was just three months old.
両親が二人とも熱病(fever)で相次いで亡くなったのは、当時の医療環境の悪さのためか? LMMの母ClaraはLMMが2歳になる前(21ヶ月)に亡くなっている [Alpine Path,p.16]
She brought me up by hand.
by handはわざわざ手でという意味があり、 brought ... up by handで母乳でなくミルクで育てる意味がある [リーダーズ+] 。アンは前者の意味で使い、トマスのおばさんは後者の意味で使っていると思う。 だから、アンが言うことを聞かないと、欲しくもない子を引き取って、 わざわざミルクにお金をかけて育てたのに、と愚痴がでるのだろう。 アンが正確な意味を知っているとしたら、people who are brought up that way better than other peopleとぼかした言い方でなく、 もっと直接的な表現をしたと思う。
それとも松本訳 [松本訳,p.65] のように、アンもトマス夫人も後者の意味で使っていたのだろうか?
[Annotated AGG,p.87] では、手で育てた意味と、体罰でもって躾たの意味としている。
トマス夫人と同様に、"by hand"にこだわる場面が、 Charles Dickens, "Great Expectations"(大いなる遺産), chap. 2にある。 Mrs. Joe Gargery(主人公Pipの20歳年上の厳しい姉)が主人公のPipを"by hand"で育てている。 うるさいくらい"by hand"が使われるので、AGG 5章の元ネタのような気がしてしょうがない。
I helped look after the Thomas children
アンよりトマス家の子供のほうが小さいので、アンを引き取った当時、 トマス夫人はまだ比較的若かったと思われる。 掃除の仕事に行った先の孤児を引き取ることになったので、 子供のいない貧乏なトマス夫妻にとっては良い迷惑だっただろう。 ミルクで育てたのは、当時子供がいなくて母乳がでなかったからだろう。
Mrs. Thomas was at HER wits' end, so she said, what to do with me.
人を入れ代えて前段と全く同じ文を使うことで、 全く同じ状況が繰り返されたことを強調している。 前回は数人の人が心配して(途方にくれて)くれたわけだが、 今回心配したのはトマス夫人ひとりだけ。 だからherが強調されているのだと思う。
[日記(E)2,p.17, Sept. 21, 1910] と比較。
Many times I feel at my wits' end between tha chain which bind me on all sides...
I went up the river to live with her in a little clearing among the stumps.
[日記(E)1,p.23, July 14, 1890] と比較。
"Montana" is a big leafy stumpy waste away back of Charles Macneill's farm
Mr. Hammond worked a little sawmill up there
製材所は木材を運ぶために川沿いに位置するようである。 住む場所が、町からどんどん山の中に移っている。
[カナダ史] によると、1850年代までに沿海州(ニュー・ブランズウィック、ノヴァ・スコシア、PEI) は北米海運業の中心地の一つになっていた [カナダ史,p.153] 。ハモンド氏が働くノヴァ・スコシアの川沿いの製材所の材木は、当時の主要な輸出物だった。
Mr. Hammond worked a little sawmill up there, and Mrs. Hammond had eight children.
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にという、 御伽草子の桃太郎と同じ説明パターンである。
Bingen of the Rhine
Caroline E. Norton(1808-1877)の作 [Use of Quot. & Allusion,p.18] [松本訳,p.481] [Annotated AGG,p.88] 。Bingenはライン川(the Rhine)沿いの町 [リーダーズ+] 。 Bingen of the Rhineは、Kate Douglas Wiggin(1856-1923), "Rebecca of Sunnybrook Farm" (1903), 5章でも引用されている。AGGと"Rebecca"の類似点については、 [Annotated AGG,pp 11-12] を参照。
The Seasons
James Thomson(1700-1748)の作 [Use of Quot. & Allusion,p.18] [松本訳,p.482] [Annotated AGG,p.89][Works of Thomson] によると、5541行という長大な詩である。
Fifth Reader
映画 [Sullivan Entertainment] でフィリップス先生が持っていた教科書は"Royal Crown Readers"だったが、 オリジナルは"The Royal Reader" [Annotated AGG,p.89] 。表紙も違っていた。
The Downfall of Poland
Hohenlinden, Edinburgh after Floddenなど LMMは勇ましい戦争物の詩が好きだったらしい。
Anne gave herself up to a silent rapture...Marilla guided the sorrel abstractedly...
客観的に見ると、どちらもぼ〜っとしている様子(特にマリラ)が目に浮かび、結構笑える。
Pity was suddenly stirring in her heart for the child.
マリラの気が変わったのはこの時突然。 人の気が変わるのは、突然カタストロフィックに、なのかもしれない。
On the left were the steep red sandstone cliffs, so near the track in places that a mare of less steadiness than the sorrel might have tried the nerves of the people behind her.
道(track)の直ぐ側に切り立った崖(steep cliff)があるのは、今アンの人生(track)に危機的状況が迫っていること、 それを実直で落ち着いた(steadiness)マリラ(sorrel [mare, 成熟した雌 [リーダーズ+] ])が救うことになる意味だろう。
beyond lay the sea, shimmering and blue, and over it soared the gulls,
詳細から全体へ、近くから遠くへ、水平方向から垂直方向へ、 というパターンで立体感を出す場面が多いかもしれない。
カモメは魚を獲るために飛んでいるので、そんなに空高くは飛んでいないのだろう。 セント・ローレンス湾は結構良い漁場なんだろう。
rousing from a long, wide-eyed silence.
完璧にハイな状態から復帰してきた。これまでの生活が苦しくてもなんとかこなせたのは、 こういう心の安定化手段を持っていたからだったも考えられる。 アンと子供時代の経験が重なるLMMもそうだったのか?
There are heaps of Americans come there for the summer.
あまり米国人を快く思っていないらしい。
[日記(E)2,p.29, Nov. 29, 1910] と比較。
The Americans are a noisy nation.
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osawa
更新日: 2002/12/07