メモ:3章

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3章 マリラ・カスバート、仰天

You don't want me!
Youは二人の意味にとった。マシューもしょうがないから連れて来た、 と言っているので同罪だから。 誰に向かって言ったと明示されていないが、 たぶん二人とも弾劾しているのじゃないだろうか。
I might have known it was all too beautiful...
I might have knownは2度繰り返す。I might haveは3回繰り返す。wantは4回繰り返す。 確かに、本当に怒っているときは同じフレーズをくり返すかもしれない。
I'm going to burst into tears!
客観的に見ると、非常に説明的なので、コミカルに聞こえると思う。 本人はいたって真剣なのだが。次の語りは、語順を変えただけで表現をくり返している。
Finally Marilla stepped lamely into the breach.
breachはstormilyと対応。嵐を呼ぶ少女?
rather rusty from long disuse
LMMの小説には、マリラ以外にもこういう雰囲気の人は何人もでてくる。 ダイアナの叔母のミス・ジョセフィン・バリーもこの系統。
What's your name?
Charles Dickens, "Oliver Twist" [Proj.Gutenberg] の2章では、バンブル氏(かんしゃく持ちの小役人。bumbleはぶつくさ言う意味 [リーダーズ+] )に連れられて、オリヴァー・ツイスト(孤児の主人公。oliverは足で動かすチルトハンマー [Webster1913] のこと。twistはハンマーで叩かれるような酷い扱いを受けて捩れて歪む意味だろうか) が委員会メンバーに引きあわされている。 そこで、名前はなにか、孤児なのは分かってるなとか、なぜ泣いているのかとか、 寝る前にお祈りはしているだろうなとか、 教育を受けさせてやるとか、手仕事を教えてやるとか、 マリラによるアンのインタビューシーンと似ていないでもない。 さらにこの後、オリヴァーはアンと同じくベッドで泣き寝入りしてしまう。 こうした状況証拠から推測すると、ディケンズ好きなLMMが狙って書いたようにも思える。 ただし、オリヴァーもアンも同じ境遇だし、委員会もマリラもどちらも批判的な立場で質問するので、 質問内容が似てくるのはある程度当然とも言える。
Unromantic fiddlesticks!
マリラはfiddlesticksを7回使っている。 状況はどれも同じで、アンの言葉を言下に否定する場合である。 マシューに対しては、fiddlesticksと言わない代わりにsniffする。
at least, I always have of late years.
なんとも言えないが、11歳でここ数年といったらかなり長い間だと思う。 at leastを使ったのは、作者の大人としてみた時間感覚ではないか?
When you hear a name pronounced can't you always see it in your mind, just as if it was printed out?
たぶんLMMはこう感じたのだろう。 視覚情報として受け取りやすいかどうかは人それぞれであるが。
If I was very beautiful and had nut-brown hair would you keep me?
Nut-brown Maid。Thomas Percy(1729-1811)が編集した Reliques of Ancient English Poetryの中の登場人物。誠実な性格らしい [リーダーズ+] 。 名前も髪の色もLily Jonesの愛らしさを反映させている。
I'm in the depths of despair.
[天路歴程(E){29}] の「落胆の沼」 [天路歴程(J)] のことだろう。
The name of the Slough was Despond. Here, therefore,
they wallowed for a time, being grievously bedaubed with the dirt;

[日記(E)1,p.207, Apr. 8, 1898] と比較。
I had been so long in the depths of bitter humiliation
I've often dreamed since then that I had a lot of chocolate caramels
孤児院の経営状態が悪くて、いつもお腹を空かせていたいた可能性もある。
there remained only the east gable room.
東にあるのは何か意味を持たせているのか? 少なくともAGG 4章のアンの朝の印象(人生の節目の場面)を表現するには、 陽が登る方向の東向きが望ましかったと思うが (その点では、 AIs(J):40章 の朝も同じ)。
  1. 東は教会堂の祭壇の方角 [リーダーズ+] 。アンがAGGの女神役ということか?
  2. easterは東から吹いてくる暴風 [リーダーズ+] 。アンはグリーン・ゲイブルズに吹いてくる暴風とも言える。
  3. Easter(復活祭)はもともとEostre(曙/春の女神)の祭りに起源を発する [リーダーズ+] 。アンは春(3月)に生まれたので、春の女神と言って良いかもしれない。
  4. Eastで東洋の意味。西のマリラとは対立関係にある? Joseph Rudyard Kipling(1865-1936)の言葉で、 Eeast is East, and West is West, and never the twain shall meet. [リーダーズ+] がある。
  5. Eastern Churchで東方教会。ローマ教会とは破門し合って仲が悪かった。 宗教的にマリラと対立する人の意味? AGGで盛んにretreat(退却の意味もある)が使われる。 アンはeast gableへ、マリラはkitchenへと退却する。 各々の陣地がeast gableとketchenなのだろう。
  6. [エゼキエル書,010:019]
    And the cherubims lifted up their wings, and mounted up from the earth in my sight: when they went out, the wheels also were beside them, and every one stood at the door of the east gate of the LORD's house; and the glory of the God of Israel was over them above.
    神の家の東の門でケルビムが集まって、神の栄誉がその上にある。 アンの部屋はGreen Gablesの神の栄誉の門?
I daren't trust you to put it out yourself. You'd likely set the place on fire.
結構傷つく言葉だと思う。マリラの欠点を示すためか?
後にアンは燭台の光を遮ることで、ダイアナと通信するようになる。 マリラはあまり良い顔をしないが、アンにしたいようにさせておく。 つまり、燭台は信頼の象徴となっている。
The whitewashed walls...
壁は保護の象徴であり、同時に分離の象徴 [西洋シンボル事典] 。アンはまだGreen Gablesに受け入れられていないので後者。 そのうち部屋を飾る、壁紙をかえる等で前者に変えていく。
if Matthew had expressed a predilection for standing on his head.
ルイス・キャロルの不思議な国のアリス (Lewis Carroll, Alice's Adventures in Wonderland, CHAPTER V)で、 逆立ちが好きな親父さんの歌がある [Alice's Adventures] 。たぶんそれではないか?
`You are old, Father William,' the young man said,
`And your hair has become very white;
And yet you incessantly stand on your head--
Do you think, at your age, it is right?'
'もう年だよ、ウィリアム親父'、息子は言った
'髪なんかもう真っ白だ
それでも親父はすぐに逆立ちしたがる--
考えてもみなよ、いい年なんだから、体に良いことかい?'

ロンドンの浮浪児の遊びで流行ったのが逆立ち(p. 174, 1860年) [パンチ素描集,p.174] 。道でみんなで逆立ちされるとかなり迷惑だったらしい。 こういう背景からマシューの逆立ちを見ると、 逆立ちしたいだなんてなんて下品な趣味でしょう、という非難の意味も含むのかもしれない。 AGG(J):24章 では"physical culture exercises"(体育体操)を、"physical culture contortions"(体育曲芸)と揶揄しているので、 体を派手に動かす仕草は、スポーツとして認められているもの以外は、 みっともないものと考えられていたのだろうか?
"...What good would she be to us?" "We might be some good to her"
コペルニクス的転回? [天路歴程(E){32}] Help(助力者,マシュー)が「落胆の沼」に落ちたChristian(基督者,アン)に助けを与える。
HELP. Then said he, Give me thy hand: so he gave him his hand,
and he drew him out, and set him upon sound ground, and bid him
go on his way.
said Matthew suddenly and unexpectedly
これはマリラだけでなく、マシューにとってもsuddenly and unexpectedlyなのじゃないか? ここでマシューの気持ちは固まったと思う。 これより前ではマリラに押されっぱなしで弱気な姿勢だが、 これ以後は撤退する意思が感じられない。
she's a real interesting little thing
既にshe's a real nice little thingを使っているので、ほとんど同じフレーズのくり返し。 全く説得力に欠けるが、何を言われても同じことを言い続けて、マシューの意見が結局通るという、 マリラにとっては論理も何もあったもんじゃない頭の痛い展開が見えてしまっていたのだろう。
it's just as you say, of course
一見相手の言うことを認めているようだが実は全く反対、という言動は、 後でもマシューが何度か繰り返している。
when she had put her dishes away, went Marilla
夕食が終わったらまもなく寝てしまうという、朝が早い農家の生活パターン。 すぐ寝るので夕食を軽くすます(tea)のか? たぶん体を使う朝や昼のほうに食事の重点がおかれるのだろう。
"I'm going to bed." To bed went Matthew.
同じ文をひっくり返して繰り返す言い方は何度か使われている。 アンがベッドに行き、マシューがベッドに行き、最後にマリラがベッドに行き、 だんだん人がいなくなって、マリラだけに責任がのしかかってくる雰囲気を出すために、 文頭でbedが強調されているように思う。 また、To bed went Mathiew, To bed went Marilla, a child cried herself to sleep.の3つが、 意味も聞いた感じも呼応している。
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osawa
更新日: 2002/12/07