メモ:2章
[和訳]
[目次]
[前章]
[次章]
2章 マシュー・カスバート、仰天
- balsamy fir wood
- バルサムは聖香油の香り成分でもあり、聖香油は儀式に用いられる
[西洋シンボル事典]
。マシューがアンを迎えにいくための儀式の香りに相応しい。
- a pile of shingles
- shingleは屋根板、あるいは砂利
[リーダーズ+]
。
pileは平たい物の積み重ね
[リーダーズ+]
なので、屋根板材で良いのではないか?
屋根板が積んであるのは、冬に雪が積もって屋根が傷むから?海に近くて潮風で傷むから?
[Annotated AGG,p.50]
でも屋根板を積んだものとしている。
[Puffin版]
の昔の版の表紙(ミーガン・フォローズではない)も、
駅で板の廃材を積んだ上にアンが座っている写真だった。
- the stationmaster locking up the
ticket office preparatory to going home for supper
- 汽車は1-2時間に1本くらいなのだろう。
- scope for imagination
-
Laurence Sterne(1713-68)のA Sentimental Journey Through France and Italy(1768)の
The Captiveから"I gave full scope to my imagination."
[Annotated AGG,p.50]
[OED]
心の幻を語る偽預言者にも似ている?
[エレミア書,023:016]
Thus saith the LORD of hosts, Hearken not unto the words of
the prophets that prophesy unto you: they make you vain: they
speak a vision of their own heart, and not out of the mouth of
the LORD.
アヴォンリーに住む人たちから見ると、アンは偽預言者とも見える。
- I'm not expecting a girl, ... It's a boy I've come for
- マシューがダイアナの結婚相手を連れに来たのなら、女の子でなく男の子であって当然。
- wishing that Marilla was at hand to cope with the situation.
- カスバート家の渉外役はマリラが一手に引き受けていることが分かる。
- shuffled gently down the platform
-
必ずしもあてはまらないかもしれないが、こういう童謡がある。
のそのそ進むところが丁度歌と逆である(
[Dic. Nursery Rhymes]
には含まれていない。
)。
Row, row, row your boat,
Gently down the stream.
Merrily, merrily, merrily, merrily,
Life is but a dream.
[日記(E)1,p.52, June 22, 1891]
にLMMに会いに来たMr. Mustardの表現でもshuffleが使われている。
おどおどしたマシューと同じ雰囲気。
I was busy washing the tea dishes when he came shuffled along
to ask "if I would mind" -- he always prefaces his requests with this
graceful please -- "going out for a walk?"
- demand of her why she wasn't a boy
- おおロメオ、なぜあなたはロメオなの?に状況が似てるような気もするが、全然違う?
ちなみにシェークスピアの原文ではこうである(ROMEO AND JULIET,Act 2,Scene 2)
[Works of Shakespeare]
。
O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?
Deny thy father and refuse thy name;
Or, if thou wilt not, be but sworn my love,
And I'll no longer be a Capulet.
ああ、ロメオ、ロメオ!なぜあなたはロメオなの?
お父様などいないと言って、あなたの姓を棄ててちょうだい。
もし、そうできないのなら、ただ私との愛を誓ってちょうだい。
その時は、私がキャプレットの姓を棄てましょう。
- red hair
-
-
イエスを裏切ったユダは赤毛という伝説があって、Judas-coloredで赤毛の意味
[リーダーズ+]
がある。
-
[Annotated AGG,p.28]
ではNathaniel Hawthorne(1804-64)の緋文字(The Scarlet Letter)の無垢の赤、
激しい気性の赤、ユダの髪の赤、性的な情熱の赤としている。
アンの髪は何故赤い?については、
[Annotated AGG,pp 28-30]
に面白い解説があるので、そちらを参照のこと。
-
赤はイエスや殉教者の血の色で、各種の受難を暗示する
[基教シンボル事典]
。
- green eyes
- 嫉妬深いという意味
[リーダーズ+]
。アンの性格そのまま。
- thin brown hand
- 日焼けして健康的で、男の子のようなイメージか。
マシューがアンを怖がらなくなったのは、
アンが(ダイアナと結婚するはずの)物おじしない男の子として登場したからだろうか?
- wild cherry-tree
- 野生の、と強調するのは理由があるのか?wild cherry-treeで種類を表わすのか?
野生だと実がとれないので存在価値がない、人間が手をかけて改良した品種ではなく、
ただ放っておかれた木、という感じか?
- I'd go down the track to that big wild cherry-tree at the bend
- wild cherryはcheeryまたはcheerlyで、やたら(wild)元気な(cheery/cheerly)アンのことだろう。
track(
AGG(J):2章
,
AGG(J):5章
)はgroove(
AGG(J):26章
,
AGG(J):37章
)と同じで、既存の決まり決まった生活や考え方であり、
線路(track)の曲がり角(bend)に野生のサクランボ(wild cherry)があるのは、
グリーン・ゲイブルズの単調な生活(track)に元気なアン(wild cherry)の訪れという転機(bend)が訪れることだろう。
このbendの意味は、
AGG(J):38章
のタイトル"The Bend in the Road"(道の途中の曲がり角)と同じ。
- I wouldn't be a bit afraid, and it would be lovely to sleep in a wild cherry-tree...
- 月明かりの白い花は、見ようによってはかなり薄気味悪い。
まして周りに人がいないんじゃ、実際結構辛いんじゃないだろうか?
来ないんじゃないかと心配しながら、明日は必ず来るだろうというのは矛盾を感じる。
必ず来てくれたでしょう?という問いかけの気持ちか?
この段階で名前をいっていない(3章で出てくる)。名前をいうのを忘れるほど安心したのか?
マシューもアンの名前を聞くのを忘れている。どっちもどっちである。
駅で待っているアンはまだ名無しの子(3章になるまで名前を与えられない)である。
名無しは即ちどこにも属していないことを意味する。
Anne of nowhere(何処にも属さないアン,
AGG(J):8章
)以上に孤立した、someone of nowhere(どこの誰でもない人)に近い。
- Matthew had taken the scrawny little hand
- AGGではっきりアンが握手したと書かれている場面は多くない。
マシューがアンの手を取ったとはっきり書かれているのは、
アンが助けを必要としていること(アンが先に手を差し出した)、
マシューがアンの保護者役であり、助力を惜しまないもの(差し出された手を取った)
の役目を強調するためと思われる。
また、AGG3章で絶望の深み(depths of despair)から、
アンを引き上げるきっかけを作ったのもマシューである。
ちなみにアンが握手/手を取ると書かれているのは、
2章のマシュー、
8章のケイティー・モーリス(手を取って連れられる)、
12章のバリー夫人とダイアナ(こちらは手をつなぐ、腕を組む)、
16章のダイアナ、
21章のマシュー(手を取って連れてくる)、
33章のピンク・レディー、
36章のエイブリー奨学金を取ったときのみんなとの握手、
38章のギルバート。
- He could not tell this child with the glowing eyes...
-
アンは燃え盛る生命力の塊として描かれている。
マシューとマリラは消えかかる灰かもしれない。
アンのおかげで二人の生命力にも、また火がついたんだと思う。
- all my worldly goods
-
The Book of Common PrayerのSolemnization of Matrimony(結婚式用の祈り)から
[Annotated AGG,pp 52-53]
[Common Prayer]
With this ring I thee wed, with my body I thee worship, and with all my worldly goods I thee endow:
In the Name of the Father, and of the Son, and of the Holy Ghost. Amen.
この指輪をもて我汝に嫁ぎ、我が体をもて我汝を崇拝し、我が財産をもて我汝に授く
父と子と聖霊の名のもとに
アーメン
結婚式の婚礼の誓いの場面。
この結婚式のイメージはダイアナとの誓いに使われているようである(12,18章)。
マシューにエスコートされたアンが結婚する相手はダイアナだろう。
マリラはbridesmaid(新婦に付添う女性)役か?
- bag
- 鞄はビジネス用で男性用の印象、バッグは女性用の印象を与えるらしい。ここではあえて鞄。
映画
[Sullivan Entertainment]
でアンが持っていたのは、どう見ても鞄の雰囲気じゃなく大きなバッグだった。バッグが正解?
- a bride, of course--a bride all in white with a lovely misty veil.
- これはアンがあこがれる花嫁の姿であり、
これからアンがダイアナと結婚する(永遠の友となる)予告だろう。
- But I just went to work and imagined that
- workは文字どおり仕事?なすべき本分?
想像するのが自分の仕事と考えていたのではないだろうか?
- red roads
-
赤い道はダイアナとの結婚式(12章)用の赤い絨毯の意味でもあるだろう。
- アンの人物評や世の中の見方
- 人物評や世の中の見方に矛盾・批判・葛藤がある。結構、苦労人だ。
話し相手に同意を求める表現が多い。自分を認めて欲しい気持ちの現れなんだろうか?
想像を逃避手段としても使っているが、
そこにとどまるだけでなく、かなりポジティブな使い方をしているところが人を引き付けるのか?
あるいはつい暴発したり、妄想に突っ走ったりするところが受ける理由だろうか?
しゃべっている時と黙っている時の落差も、単調な性格でないという意味で、結構印象深いと思う。
みかけのみっともなさと、中身のとんでもなさという対比も、
凡庸でない人物像を強調しているのだろう。
登校拒否したり、意図的に嘘をついたり、大人からみると非常に扱いにくい子である。
アン自身は、良い子になれたらいいがそうなれない、自分が良い子ではない自覚がある。
これは誰でも多かれ少なかれ感じることなので、親近感を抱かせるのか?
明白な悪意を持っていない(ジョージーは嫌っているが、足を引っ張ったりはしない)点が良いところか?
前向きな性格であることが、こうなれたら良いなという願望に沿うのか?
LMMは、あえて当時の良い子の基準からはずれた子として書いた
[Annotated AGG,p.11]
ようである。
話し相手に同意を求める表現が多いのは
[Annotated AGG,p.21]
でも指摘している。
- "Well now, I dunno," said Matthew.
- 全く同じ台詞。どう対応したら良いかわかならいからだろう。
- witch
- 魔女、魔法使い。
魔女は全然良いイメージがない。
初めのうちのアンに対するマリラの強烈な反発を表現するには、
魔女の方が適しているかもしれない。
魔法を使う魔女というアンのイメージは、この後何度も繰り返される。
後でも出てくるが、マリラはアンを形容するwitchという言葉を悪い意味で使い、
アンは(魔法を)良い意味でつかう。
マシューは変わった子程度の意味で中立?
- Junebells
-
-
June(6月)+bell(釣鐘)あるいはJune+belle(美人)か?
June Bellと分けて書く版もあるので、前者かもしれない。
つまりbellは教会の鐘で、June bride(アンのこと)や結婚式(グリーン・ゲイブルズに受け入れられること)
をイメージしているのだろう。
あるいはJune brideはダイアナで、アンとダイアナ結婚式(12章)のイメージか?
-
clintonia(ツバメオモト,ユリ科)。LMMが作った名前らしい。
[松本訳,p.477]
-
twinflower(リンネソウ)。
[Annotated AGG,p.56]
- divinely beautiful or dazzlingly clever or angelically good
-
[日記(E)1,p.191, June 30, 1897]
では、LMMのEdwin Simpson評に次がある。
I admit that he is good, fine-looking and clever.
この後には、"If I loved him..."と続くので、この3つではLMMには不十分なのである。
- huge, wide-spreading apple-trees
- 映画のAvenueはリンゴの木が低かった
[Sullivan Entertainment]
。写真集のリンゴも背が低い
[PEI CR-ROM]
。
-
アンは子供なので、小さな木も大きく見えたかもしれない。
-
実をとるための木は実の採集が楽なように低く育てられる。
映画
[Sullivan Entertainment]
や写真集
[PEI CR-ROM]
はこれかもしれない。
ところがAvenueやBright Riverの野生のサクランボの様にほったらかしで伸び放題だと、
実際に大きくなっていたかもしれない。
- long canopy of snowy fragrant bloom
-
汚れの無い真っ白な雪のような円天井と、ステンドグラスのある大聖堂は、
貴族(アンはlady-like)のための結婚式のイメージさせる?
- rose window
- ばら窓、円花窓、薔薇模様で縁取られた丸いステンドグラス
[リーダーズ+]
。
ロマネスクとゴシック教会では天空の星の軌道を象徴する
[西洋シンボル事典]
。
- The "Avenue," so called by the Newbridge people, was a stretch of road...
- 他の自然の描写もそうであるが、遠近感・立体感を細かく描いている。
見ている人間が小さく見えるのは、LMMが常に持ち続けた視点なんだと思う。
LMMのほとんどの作品で、自然の描写がしつこいほど繰り返されている。
厳かな開放感?箱庭の中の人間を書きながら、箱庭の息苦しさを感じさせない。
たぶん箱庭の中から外を見ている描写だからか?外から書いたら箱庭全体が見えてしまうし。
箱庭を見る視点は、LMMの代理である、語りや自然が提供している。
A Tempest in the School Teapotは、箱庭の中のもう一回り小さな箱庭。
読者の視点をいれると、3重構造になるのか?
- aisle
- 教会の北と南に2つある。信者入り口は西、祭壇は東
[基教シンボル事典]
。
- Its beauty seemed to strike the child dumb.
-
-
[Annotated AGG,p.59]
では
[ルカ伝,001:020]
でJohnの父となるZachariasが、
天使Gabrielの奇跡によって口をきけなくさせられたから、
アンを静かにさせるのは奇跡が必要だ、という説明がある。
And, behold, thou shalt be dumb, and not able to speak, until
the day that these things shall be performed, because thou
believest not my words, which shall be fulfilled in their
season.
-
だが、同じく
[ルカ伝,011:014]
に、口を利けなくする悪魔Beelzebubをイエスが体から追い出して、
口が利けるようになったというくだりがある。アンを静かにさせるのは奇跡でなく悪魔が必要?
And he was casting out a devil, and it was dumb. And it came
to pass, when the devil was gone out, the dumb spake; and the
people wondered.
イエスの力を示すために病気が治ったり、
口がきけるようになったりする奇跡を起こす話はマタイ伝にも現れる。
その他に
[詩編,039:001-2]
にはしゃべると過ちを起こすので、しゃべらないことにするというのもある。
聖書ではおしゃべりは嫌われる?
I said, I will take heed to my ways, that I sin not with my
tongue: I will keep my mouth with a bridle, while the wicked
is before me.
I was dumb with silence, I held my peace, even from good; and
my sorrow was stirred.
- her thin hands clasped before her, her face
lifted rapturously to the white splendor above.
- キリスト教的感動?何度かでてくるがほとんど同じモチーフ。
具体的な花を見るのでなく、それを越えた何かを見ているのか?
だから具象物が描かれないのか?
saw visionsがあるので目の前の物を見てるのじゃないことはわかる。
- rapture
- キリスト教用語。空中で、地上に戻るキリストと出会うときの歓喜体験
[リーダーズ+]
だそうである。なぜ空中なのだろう?舞い上がってるってこと?
- the most spiritual shadings of crocus...
- 素晴らしいものを表現すると、
どうしてもキリスト教的なこの世や肉体を越えた表現になる。
LMMの時代の人の普通の感覚か?
- elusive tintings for which no name has ever been found
- elusiveとno name以下は似た意味を2回繰り返している。
似た意味の単語を2回繰り返すパターンは多用されている。
bodyとspiritなど、対応関係の対比のパターンも多い。
- clear, mournfully-sweet chorus of the frogs
- 蛙の泣き声ががsweet?そうは思えないけど...
LMMは蛙に好意的なようである。
-
蛙は古代エジプトでは復活の女神ヒキットの象徴だが、
キリスト教では災いなどネガティブな意味が多い
[西洋シンボル事典]
。聖書での蛙は、
[出エジプト記,008:002-013]
,
[詩編,105:030]
で異常増殖して災いを引き起こし、
[詩編,078:045]
では破壊の象徴、
[黙示録,016:013]
では汚れの象徴として現われる。
。
-
frogは不快な人、froggyで冷たいの意味がある
[リーダーズ+]
。グリム童話でも蛙の王子は王女から嫌われていた。
- Matthew ruminated.
- Well now, slow, ruminateなどの語を使うことで、マシューの応答の遅さを表現し、
のっそりした牛のような雰囲気をくり返している。
- ugly white grubs that spade up
- spadeは鋤あるいは鋤で掘る。鋤は楽園追放後の辛い労働の象徴
[西洋シンボル事典,p.178]
。マシューがずっと働いてきたを意味する。この象徴の意味が無くてもわかることだが。
- I reckon..., I dunno...
- マシューはくだけた(なまった?)言い方である。
[LMM原稿]
ではあまり田舎じみたしゃべり方は避けて書いたらしい
[Annotated AGG,p.21]
。
- There's something dreadful heathenish about it
- マシューの言動はかなり保守的に傾いている。政党の選択もそう。
リンド夫人は革新派。マリラはあまり関心がない(ふり?)?
- They were on the crest of a hill.
-
[日記(E)2,p.40, Jan. 27, 1911]
によると、"Laird's Hill"。
- To the west a dark church spire rose up against a marigold sky....
- アヴォンリーの箱庭の風景。
- a great crystal-white star was shining like a lamp of guidance and promise.
-
-
キリストが生まれたときに明るい星が輝いたのに似ている。
[マタイ伝,002:009]
When they had heard the king, they departed; and, lo, the
star, which they saw in the east, went before them, till it
came and stood over where the young child was.
キリストの星は東の国から西のJerusalemに見えているのだから、
アヴォンリーの入り口から南西の方向に星が見えたのも関係なくはない?
-
[Annotated AGG,p.63]
では、great crystal-white starは宵の明星で、アンはVenusでもあるとしている。
アンは(あるいはアンに)愛(をもたらす)の女神(Venus, ローマ神話から)とも、
泡(bubbleは、夢のようなもの、あるいはベラベラしゃべるの意味がある
[リーダーズ+]
)から生まれたAphrodite(ギリシャ神話から)とも言えるかもしれない。
Venusはもともと植物や庭園を司る女神
[希・羅神話文化事典,p.49]
で、ギリシャ神話との融合の過程で愛と美の女神に変化していった。
美しい自然を愛するアンにはうってつけである。
Aphroditeはもともと懲罰的な性格を持っていたらしく
[希・羅神話文化事典,p.21]
、自分を怒らせた者(ギルバート)や自分を信仰しない者(フィリップス先生)には厳しい罰
(公然と無視、登校拒否)を与えた。
[和訳]
[目次]
[前章]
[次章]
osawa
更新日:
2002/12/07