メモ:16章
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[次章]
16章 ダイアナとのお茶会は大悲劇
- when the birches in the hollow turned as golden as sunshine...
- ここで章の展開をあらかじめ説明していると思う。
魂を笞打たれた(birchは樺の笞)空ろな(hollow)アン
(或いはbirchがアンでhollowはグリーン・ゲイブルズのこと?)が、
ダイアナをお茶に招くことができて嬉しくて光輝いている(golden as sunshine)が、
果樹園坂のダイアナ(maples behind the orchard)にワインを飲ませて真っ赤(royal crimson)に酔わせた。
それはグリーン・ゲイブルズの赤毛のアン(red and... green)の上に、
暗く(dark)無情な(bronzy)影(shades)を投げ掛けた。
一方、アン・マリラ連合とバリー夫人との戦場or戦い(fields)は、その結果(aftermath)、
みんなの注目の的になっている(sunned themselves。in the sunで公衆の注目の的
[リーダーズ+]
)。
- Anne reveled in the world of color about her.
- revelationで啓示を受ける、colorは個々人の個性の意味なら、
自分をめぐるバリー夫人等のいろんな考え方のひしめく世界で、アンは啓示を受けた?
ダイアナとの友情に関するコメントか?人とは意見は合わないものだということ?
- put these boughs in the old blue jug
- ダイアナ(boughs,カエデの枝)が陰うつにor酷く(blue)酔っぱらう
(jugはビールやワインのジャグ、あるいは大酒を飲む意味)こと?
一方、青は忠実の象徴
[西洋シンボル事典,p.141]
、jugは選ばれた器、救済された人間の魂
[西洋シンボル事典]
、boughは救済の徴
[西洋シンボル事典,p.41]
。このアプローチではアンがワインを飲ませたのは悪気があったわけではなく、
いずれ救済されるとも読める。
- Mind you don't drop leaves
- leavesは堕罪の象徴であるイチジク(fig)の葉か?
身に付けたイチジクの葉を落とすようなみっともないまねはするなってこと?
- don't forget to put the tea to draw until you sit down at the table
- 何かするまえにちゃんと考えて行動しろ、
(キイチゴ水をダイアナに出す前に味見するべきだった)
の意味なのではないかと思うが、
辞書を引いてもそれらしい意味が見つからない。思い過ごし?
be on the tableで検討中、lay on the tableで上程する
[リーダーズ+]
。もしteaがmoralなど教訓の意味だと、前回の失敗から教訓を引きだす意味でピッタリなのだが。
- mind you don't forget to put the tea to draw
-
[Annotated AGG,p.178]
ではアヴォンリーでは、さらにストーブで煮出す等ストロング・ティーが好まれていたかもしれないとのこと。
お湯は入れてあったが待つ時間が長くなった、あるいは上述の煮出す過程を忘れたのが本当かもしれない。
ここではもっと分かりやすく、お湯を入れ忘れたにしてみた。
お茶を淹れ忘れたことでマリラはずいぶん怒っているようだが、なぜそんなに怒るのかわからなかった。
-
マリラの完全追及型の性格のため。席に着いたら必ず全てがそろって、準備できていなくてはならない。
-
食事のスタイルのため。食事を作るのと、食事を食べるのでは分けられるのが常識だったから?
この場合も上と同様に、席に着いたら全て準備できていなくてはならない。
-
実際に食事が始められなかったため。さて席についた、食べ始めようとしたらお茶がなくて、
食事が始められなかった。(お茶は食事の開始時に必須?)
のどれか?
- [He] said we could wait awhile as well as not.
- 以下、二人の間で好意の贈り物の交換会が始まる。
アンにとってマシューが好ましかったのは、単に優しいだけでなく、
今まで出会わなかった価値観を提供してくれるからだろうか。
カナダに関係する例をあげると、
北米北西岸のインディアンの間で富・権力の誇示として行なう冬の祭礼時の贈り物分配行事(potlatch)
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があり、1920年代にカナダ政府により禁止され
[カナダ史,p.265]
、1951年に禁ずる法律が廃止された
[カナダ史,p.299]
。
ちなみに贈与の文化に関しては、
The Official Yamagata Hiroo Page
のEric S. Raymond 著, 山形浩生 訳 "ノウアスフィアの開墾(Homesteading the Noosphere)"が、
オープンソースとの関連で議論している。
- if you took a notion to get up and have dinner in the middle of the night.
- dinnerはAGGでは昼ご飯の意味で使われていること、
真夜中に昼ご飯だと食い違いが激しく面白いことから「昼ご飯」とした。
- it may make you more addlepated than ever
- addleは腐る、pateは頭
[リーダーズ+]
。アンの頭はいかれてる?
この後、ダイアナ泥酔事件が起こるので、なかなか示唆的である。
- yellow crock of cherry preserves
-
crockは弱々しくなる、つぶれる意味がある(1846年)
[OED]
。yellowとcherry preservesは不明だが、ダイアナが酔いつぶれてダメージを受けることか、
ダイアナと遊べなくなってアンがダメージを受ける意味に関係するのではないか?
さらに新しい用法では、crockedは酔っぱらった意味(1927年)を持つようになったが、
AGGが書かれた頃(1905年)には合わない。
- of course I'll ask her just as if I didn't know
- 非常に形式が重要なことがわかる。これこそelegantなお茶の神髄なのだろう。
茶道にも匹敵するのでは?
また、ケーキ等はすべて自信を持って自慢するために作っているので、
どうあっても食べないうちは返さないというスタンスが見え隠れしている。
- it's a wonderful sensation just to think of it.
- この前にgrown-uppishと言っていることからすると、
あこがれていたが今まで関与できなかった大人の世界で、
これまで自分が溜め込んだ知識を総動員し、
役割を演じきってみせるという意気込みだから、wonderfulなのだろうか。
- No,.... But...
- ここの会話では、マリラの答えのパターンは否定のあとで逆接が続く。
飴とムチを使い分けてるってことだろうか?だんだんアンの誘導の仕方を心得てきたのだろう。
- raspberry cordial
- flip one's raspberryで自制が利かなくなる、突然笑いだすの意味がある
[リーダーズ+]
。ダイアナが酔っぱらったことだろう。
cordialは誠心誠意の意味
[リーダーズ+]
もあり、アンが酔わせるつもりではなかったことを意味するのではないか?
- the church social
- Church Aid Societyが正式名称だが、マリラはthe church social, the Aid Society,
the Ladies' Aid, the Aid, the Aid meetingなど、結構いい加減に言っている。
the church socialはAidがないので別物?
- the sitting-room closet
- pantryはこの意味で使っているようである。
- he's hauling potatoes to the vessel.
-
[PEIの歴史,p.122]
によると、1854年の合衆国との互恵協定が、島の農産物に新しい市場を開いたとのこと。
自分の家で消費する分はわざわざ買ったりしないだろうから、マシューのジャガイモは輸出用だろう。
輸出先は、ニューファンドランド、バミューダ、ノヴァスコシア、ニュー・ブランズウィック等
[PEIの歴史,p.132]
。
[カナダ史,p.124]
によると、1850年代までにPEIは食料供給基地になっていたとのこと。
- the LILY SANDS
- 船の名前。アンがダイアナを酔わせるが、潔白であること(lilyは潔白の象徴
[西洋シンボル事典,p.318]
)を意味するのだろう。
- the Red Sweetings
- sweetingで甘味リンゴ
[リーダーズ+]
。リンゴの品種と思われる。
[OED]
では1530年の用例がある。
[Annotated AGG,p.180]
でも16世紀から伝わる種とのこと。
- They taste twice as good as any other color.
-
AGG(J):5章
の「バラは他の名前だったとしても香りは同じ」に対する疑念と同様、
外観や名前は重要であるというアンの意見である。
料理は目でも楽しむものというのは、日本料理にもつながる?
- tumbler
- 大型のグラス。今は平底だがもともと底が丸かったらしく、
tumble(ひっくり返る,宙返りする)するものだったらしい
[リーダーズ+]
。確か日本にも底の丸いお猪口があったように思う。
tumblerはふらふらしているダイアナを暗示するようであり、
同時に現われるtray(盆)はtrail(足をひきずる)かもしれない。
また、タンブラーは普通お酒を入れる入れ物じゃないだろうか?これも酔っ払いの予告?
- I don't feel as if I wanted any after all those apples.
- An apple a day keeps the doctor away(1日リンゴ1個で医者いらず)という諺
[リーダーズ+]
がある。アンが十分リンゴを食べたので病気にならなかった(酔いを避けられた)とも言えるが、
ダイアナも(多分)たくさん食べているので根拠薄弱。
- I thought you were desperately ill with smallpox
-
英国の場合だが、
[Man Environment Desease,p.184]
によると、1871年に天然痘が流行した。
ダイアナが天然痘になるという状況は、さほど非現実的ではなかったらしい。
[日記(E)1,p.33, Oct. 6, 1890]
にスカンクの臭いが染みついた同級生について
while poor D.[Douglas Maveety] sat dejectedly in one corner, as much avoided
and shunned as if he had been a leper or a smallpox patient.
と書いてあるので、天然痘は非常に嫌われた病気だった。
ダイアナが天然痘(smallpox)にかかっても看護してあげる云々に近い話は、
Charles Dickens, "Bleak House"(荒涼館, 1852), chap. 31にある。
お手伝いのCharleyが病気になって主人公のEstherが看病したら、
逆に病気がうつって死にそうになる。
隔離されているので伝染病なのですけど、病名ははっきり書かれていない。
ただ、病気のおかげで美人でなくなる(顔に痕が残る?)ような風に書かれている。
ちなみに天然痘の俗称は疱瘡(ほうそう)。
- I was buried under those poplar
trees in the graveyard and you planted a rosebush by my grave and
watered it with your tears; and you never, never forgot the
friend of your youth who sacrificed her life for you.
-
AGG(J):37章
でマシューの墓の側にアンが植えたのもバラ(Scotch rosebush)だった。
マシューの墓の周りには同じくポプラが植えてある(ポプラの花言葉は「悲嘆」
[ジーニアス英和]
)。この時の作り話が、ほとんど同じ形で現実になる。
きっとアンもマシューのバラに涙の水を注いだことだろうし、
自分のために一生懸命働いて命を縮めた可能性もあるマシューへの思いを一生忘れない。
想像が現実になるということは、AGGは一種のファンタジーとも読めるということだろうか。
- I'm a great trial to her.
-
[ペテロ書(1),004:012]
Beloved, think it not strange concerning the fiery trial which
is to try you, as though some strange thing happened unto you:
- plum pudding
- 俗語でplumbは大失敗の意味
[リーダーズ+]
。ソースにネズミが浮かんでたとんでもない失敗のことだろうか。
[OED]
ではこの意味が見つからなかった。最近の用法あるいは一般的でない用法であって、
AGGには当てはまらないのかもしれない。
plumbは重りの意味
[リーダーズ+]
。plumb(重り) puddingは、「重し責め」という拷問(死なない程度に体に重しを乗せる)
[拷問全書,p.157]
を頭に置いているかもしれない。
例えばトレヴェリアンの"イギリス社会史"
[英社会史,p.336]
に、18世紀の英国(イングランド)の食生活について「食後の甘い物やプディング、
とくにウッドフォード牧師が縁起でもなく'plumb(鉛錘) pudding'と綴ったプラム・プディングは、
イングランドの食卓で最上のものとみなされるようになった」と書いてある。
つまり、チェスター・ロス夫妻にplum puddingを勧めて(重し責めの)拷問を加えようとした、
あるいは、ネズミの浮いていたソースをお客さんに出して大恥をかいたことは、
アンにとって(マリラにとっても?)重し責めの拷問にも等しかった、という意味だろうか。
- the pitcher of pudding sauce WARMED UP
- warmed upが強調されているのはなぜだろうか?死んだネズミの臭いがするようだから?
- fancy what she must have thought of us.
- アンとマリラは既に運命共同体である認識がある。
- brought in some strawberry preserves
- strawberryはstraw(つまらない物
[リーダーズ+]
)+berryで、plum puddingの代わりにつまらないものを持ってきた意味?
- "I must go home," repeated Diana, stupidly but determinedly.
- AGG 15章と、アンとダイアナの立場が逆になっている。
今回はアンが何を言ってもダイアナは聞かない。
- the rain poured down in torrents
- torrentは感情のほとばしりの意味もある
[リーダーズ+]
。ここではアンの心の代弁。心に降る涙の雨。
[日記(E)1]
などでは、土砂降りの表現で頻繁にpourが使われる。
諺で"It never rains but it pours."
[リーダーズ+]
(悪い事は続けて起こる)があり、引き続く凶事を暗示しているかもしれない。
- Anne did not stir abroad
- stirで大騒ぎ、get abroadで噂が広まるの意味
[リーダーズ+]
。これから起こる事件の予告を意味する?
- it sounds so--so--like Mrs. Thomas's husband!
- アンにとって酔っ払いといえばトマス氏。
酔っ払いでかつ、アンの心を傷つける言動があったため、非常に嫌われている。
ダイアナをあのトマス氏と同じにしてしまうなんてという、
強い恥ずかしさ、後悔の意味が込められているのだろう。
- I just kept that bottle for sickness.
-
[PEIの歴史,p.90]
によると、(19世紀の)シャーロットタウンの外科医ジョン・マッキイソンは、
香料を配合したワインとブランデーを「憂鬱状態を改善して動物的な精神力を高め、疲労、
だるさ、意気消沈、それに胃や腹部の痛風性のけいれんを治す」
薬として勧めている。
1901年にPEIで禁酒法(Prohibition)が可決されている
[Annotated AGG,p.186]
ので、マリラのカラント・ワインはマリラの言うように民間療法の家庭薬だったのだろう。
- I must cry
- 3章でもそうだが、アンは常に目的を持って主体的に泣いている。
理由はわからないけどなんとなく泣くのではなく、常に泣く理由を意識している。
そして泣くことによって心の傷を(無意識に)癒している。
だから誰よりも激しくエネルギッシュに泣ける。
また癒せる傷だから泣けるのであって、泣けない心の傷は、解決され癒される見込みすらない
(バリー夫人からダイアナと遊ぶのを断られた時、マシューの死の時など)。
- My heart is broken.
- 何度も心が砕けているということは、理論上は自己修復も可能ということ。
それともひびは治らず、単に組合わされて形が直っているだけ?
現実はどうあれ本人は、壊れた物が容易に直らないように、再起不能な感覚を持ち続けたのだろうか?
トマス氏やリンド夫人などから受けた「心の傷」はかなり長引いているようなので、
物理モデルとの関連(言葉による思考の規定)はあると思う。
心が砕けたのは以下の時。
-
14章:告白したのにピクニックに行かせてもらえなかった時。
-
16章:バリー夫人にダイアナと遊ばせないと言われた時。
-
27章:髪を緑に染めた時。
-
29章:ホワイト・サンズ・ホテルのコンサートに行けなかった時。
16章で修道女の想像をしている時に、その修道女は心が砕けていた。
心ではないが、23章では足首の骨を砕いている。
- I just told her plainly that currant wine wasn't ...
- 売り言葉に買い言葉であるが、マリラもアンに負けずに怒ると際限がない。
- Marilla...,grievously disturbed, leaving a very much distracted little soul
- disturbedとdistractedが対応。
- Anne stepped out bareheaded
- 本来なら他家を訪問する(外出する?)際には必ず帽子を被るのだろう。
- through the spruce grove
- このころはまだお化けの森のように夜の森を怖がらなかった。
- lighted by a pale little moon hanging low over the western woods.
- 青白く低くかかる月は、元気のない月の女神ダイアナのことだろうか。
- malice prepense
- 法律用語。予謀の犯意での意味
[リーダーズ+]
。To do her justice以下は、裁判の法廷の雰囲気?
[Annotated AGG,p.188]
では、中世フランスの法律用語から。
[English Etimology]
では、アングロノルマン、あるいは古フランス語のpurpenser(予め考える)が起源。
- said Mrs. Barry, going in and shutting the door.
- 以前、アンに丁寧に挨拶したバリー夫人とは別人のようである。
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osawa
更新日:
2002/12/07