メモ:14章
[和訳]
[目次]
[前章]
[次章]
14章 アン、罪を告白する
- Anne's Confession
-
Robert Browning, "Confessions", ixにこういうのがある
[Familiar Quot. Archive]
。オリジナルのコンテキストが分からないのだが、
アンの告白の2面性に合っているように思える。
How sad and bad and mad it was!
But then, how it was sweet!
- shelling peas
- bring someone out of one's shellで人を打ち解けさせるの意味
[リーダーズ+]
。アンとマリラが喧嘩しても仲直りすることの予告だろう。
- by the spotless table
- spotlessは「潔白な」の意味がある
[リーダーズ+]
。アンの潔白がいずれ明らかになることを意味するのだろう。
- singing, "Nelly of the Hazel Dell" with a vigor and expression
-
[Annotated AGG,p.453]
にも述べられているが、この歌は元気に歌うような内容ではない。
歌を知っている当時の人には変な子だとすぐわかるようになっている。
あるいは、歌に歌われる憂鬱な未来(紫水晶が紛失したこと)が、
元気なアンによって打ち払われるということか?
- led to the block
-
やたら首切りする公爵夫人はルイス・キャロルの不思議の国のアリス, 6章に登場する
[Alice's Adventures]
。
`Talking of axes,' said the Duchess, `chop off her head!'
- There now
- 前出のアンのSo thereに対抗してマリラが言った言葉。
アンとマリラの場合、言ったら言い返すというパターンが多い。
心理的な対等性と、もちろん両者の性格からくるのだろう。
- Anne persisted in denying...but Marilla was only the
more firmly convinced...
- これ以降は、裁判風な言い回しが続く。
アンが被告人、マリラが検察官、マシューは弁護人。
- he could not so quickly lose faith in Anne
- バニヤンの天路歴程
[天路歴程(E){312}]
では薄信者(Little-faith)は追い剥ぎに襲われたが、大事な宝石は失わなかった。
あまり関係ない?
John Greenleaf Whittier (1807-1892), "Ichabod" st. 8にこういうのがある。
[Familiar Quotations]
From those great eyes
The soul has fled:
When faith is lost, when honor dies,
The man is dead!
信頼も面目も失ったら、その男は死んだも同然、ということなので、状況としては似ている。
信頼が失われるのは良くあるテーマなので、関連はない?
- Marilla felt deserted by everyone.
- Matthew asked forlornlyとあるので、
マリラ、マシュー、たぶんアンも、3人とも多かれ少なかれ見捨てられたと思っている。
- Wednesday morning dawned as bright and fair
- brightで証拠が明白、fairで公明正大な意味がある
[リーダーズ+]
。アンの潔白を意味しているのだろう。
- Birds sang around Green Gables
- 受胎告知の場面で、聖霊(spirit)を意味する鳩(dove)が描かれることがある
[基教シンボル事典]
。
- Madonna lilies
- ニワシロユリ
[リーダーズ+]
。聖母(Madonna)も白もユリも純潔の象徴。
[松本訳,p.488]
に述べられているが、ユリの香りと合わせて、アンの潔白を意味するのだろう。
確かに、アンに対するお告げなので、受胎告知(Annunciation)の場面というのはぴったりである。
この受胎告知は、
この事件の後でマリラがアンを自分の子供と認めることができたことも意味しているのだろう。
アンも、世間から離れて暮らすマリラを導く役目を果たす意味でマリラの母役なので、
同時にアンに対する告知でもあるのか?
Marilla
と
Anne
の項も参照のこと。
- what are roseberries compared to amethysts?
- roseberriesは英国の5th Earl of Rosebery(1847-1929)?
1894-1895に自由党から首相になった
[リーダーズ+]
。amethystsは紫で「王権、帝王」の意味
[リーダーズ+]
で、ここでは王権支持派の保守党(the Tories)を意味するのだろうか。
この突然現われるネックレスの文は、政治批判(自由党(the Whigs)のローズベリーじゃ保守党に劣る)
となるんじゃないだろうか。
一方、AGGの政治批判はカナダに限定されているようなので、上記の英国の話は関係ない?
また、主にリンド夫人が批判するので、保守党より自由党を持ち上げている。
ここでは逆に保守党を持ち上げていることになるので、その意味でも当てはまらない?
- You are the very wickedest girl
- wickedはwick(魔法使い)から来ているらしい
[リーダーズ+]
。witchは何度かAGGに出てきているので、暗にそれを示しているのか?
単に悪い子の意味?
- crying and writhing in an utter abandonment of disappointment and despair
-
天路歴程
[天路歴程(E){58}]
の、Christian(基督者)がMr. Worldly Wiseman(世才氏)のアドバイスで間違った道を進んだが、
Evangelist(伝道者)に諭され、自分の失敗を後悔したシーンに似ている。
Now Christian looked for nothing but death, and
began to cry out lamentably;
その後でEvangelistに、まだ希望があるか、罪が許されるかと聞くと、
2度と道をそれなければ受け入れられるだろうと言われるが、
これはブローチが見つかったあとのアンとマリラの会話に似ている。
Christian: Sir, what think you? Is there hope? May I now go back
and go up to the wicket-gate?
...
Evangelist : ...yet will the man at the gate receive thee.
wicket-gateは小さな門(狭くて入るのに苦労する門)
[マタイ伝,007:013]
で、wicked (girl)と似てると思うのは気のせい?
- But I've put my hand to the plow and I won't look back.
-
[ルカ伝,009:062]
[松本訳,p.488]
[Annotated AGG,p.154]
And Jesus said unto him, No man, having put his hand to the
plough, and looking back, is fit for the kingdom of God.
にもあるのが大元だろうが、前半部はJ. Bunyan, The Pilgrim's Progress
[天路歴程(E),{21}]
でも使われている。
I have laid my hand to the plough
- looking tragically over the banisters
- 実はアンは今romanticな状況にいるはず。悲しみはするがどこかで悲しみを楽しんでもいる。
unromanticな茹でた豚肉と野菜がそれを表している。
- his sense of justice and his unlawful sympathy
- John Bunyan, The Progrim's Progress
[天路歴程(E){57}]
ye cannot be justified by the works of the law
元は
[ローマ書,003:028]
。
Therefore we conclude that a man is justified by faith without
the deeds of the law.
- her dishes were washed
- 鉢は、過剰な何かを象徴する場合、何かを受け取る容器を意味する場合がある
[西洋シンボル事典]
。状況から判断すると、アンに酷くあたり過ぎたことに対応するはずなので、
キリストの血(アンの苦しみ)を受けた聖杯か?
- her bread sponge set
- パンは聖体の意味で使ったのか?スポンジは拭い去るもの
[リーダーズ+]
?それまでの諍いを拭い去る意味か?
- her hens fed
- 卵をかえすめんどりは、辛抱強さの象徴
[西洋シンボル事典]
。マリラの忍耐のなさを意味する?アンの忍耐か?
- black lace shawl
- 黒は希望の無い悲しみ、感覚的欲望の抑制の意味がある
[西洋シンボル事典]
。laceは笞打つ意味がある
[OED]
。紫水晶を無くして、
笞打たれるような暗い未来(black lace)に覆われる(shawl)ことを意味するのだろうか。
あるいは、black lays show all(アンがでっちあげた偽り(black)の歌物語(lay)
が全てを明かす(show all))と読むのかもしれない。
- she had noticed a small rent
- rentには関係や意見の分裂の意味がある
[リーダーズ+]
。アンとマリラの関係のほころびが今から修復されるのである。
- when she had taken it off on Monday afternoon
- 憂鬱な月曜日(Blue Monday)
[リーダーズ+]
にかけたんだろうか?
dismal morning, dismal mealと繰り返されているのは、
その後で一気に陽気になるのを強調するためであって、月曜日に事件が始まったのとは関係ない?
- the Ladies' Aid
- (運命の)女神の(Ladie's)助け(aid)の意味?
- The shawl was in a box in her trunk
- 心(胴体(trunk)の中の箱)に閉じこめられた真実の意味だろうか。
東方の3博士の贈り物は、箱に入れられることがある
[西洋シンボル事典]
。
- struck upon something
- strike upon ...で考えを思いつくの意味
[リーダーズ+]
。つたを通して光がビーム状に差し込むので、啓示の光と思われる。
つまり、自分が間違っていたという啓示を受ける意味だろう。
単語帳のlight
と
単語帳のvine
を参照。
- violet light
- 紫色は、ここでは贖罪の象徴
[西洋シンボル事典]
だろう。
- I was bound to get to the picnic
- ピクニックに行くのは(楽しい)義務なのか?"I must go to the picnic"なども同じ。
単に行きたいのではなく、(神との?)契約か何かの約束を匂わせているのか?
ピクニックは何を意味しているのだろうか?
picnic hamperで好きなようにさせる, 甘やかすの意味
[リーダーズ+]
。晴れて無罪となったアンに好きなようにさせる意味?
- I see that now
- 先に、マシューに向かって"I can see that"と言っているのに対応?
- if you'll forgive me, Anne, I'll forgive you and we'll
start square again.
- グリーン・ゲイブルズにおけるアンの位置付けは、この件で完全に確立された。
この言葉が示すように、アンとマリラは、もらわれてきた子と引き取ってあげた人ではなく、
互いの欠点を認めた上で信用を基本に付きあえる、対等で独立な立場のパートナーとなった。
ここらへんは
[Annotated AGG,p.26]
も詳しく書いている。例えば、アン・カスバートになっていたら、
この自由な関係は容易には作れなかっただろう、ということ。
- Anne flew up like a rocket.
-
[松本訳,p.488]
によるとL. キャロル(1832-1898)の不思議の国のアリス,4章から。
[Alice's Adventures]
Last came a little feeble, squeaking voice, (`That's Bill,'
thought Alice,) `Well, I hardly know--No more, thank ye; I'm
better now--but I'm a deal too flustered to tell you--all I know
is, something comes at me like a Jack-in-the-box, and up I goes
like a sky-rocket!'
さらに古い使用例がある。Thomas Paine (1737-1809), "Letter to the Addressers"
[Familiar Quot. Archive]
And the final event to himself [Mr. Burke] has been, that,
as he rose like a rocket, he fell like the stick.
- There's plenty of stuff baked in the house.
- マリラには躾けを止めない決意があるから、
実は仲直りのお菓子を、事前に焼いていたんではないだろうか?
もし盗んでいたら、アンを諭すための小道具として使うために。
- a thoroughly happy, completely tired-out Anne ... in a state of beatification...
- 完全さが強調され、beatification(至福)という言葉が使われているのは、
受胎告知の至福なのか、それとも別の意味か?
- She was leaning out to pick water lilies
-
water lilyを取ろうとして溺れかけたのは、何か裏に意味がありそうな気がするが?
- prob'ly been drowned
-
詩に使われる言い方をしてromanticな雰囲気を出したらしい。
- Marilla told the whole story to Matthew
- マリラがアンの躾けに責任をもつので当然なのだろううが、
マシューにしゃべるときは、ほとんど全て事後報告に近い。
マリラがマシューに語る場面を入れることで、一件落着した雰囲気を出すためか?
マシューが途中で話をされる場合は、ご意見番ではなく愚痴を爆発させる相手としてである。
3章で"a mere man must have some vent for his emotions."と言っているが、
同じことはマリラにも言える(自分では気づいていないが)。
- I'm willing to own up that I made a mistake
- 14章のタイトルAnne's Confessionは、実はマリラの告白でもある。
- I've learned a lesson.
- 先のマリラのセリフ"she's having it [=bringing up] now"を受けているのだろう。
マリラがアンを躾けるだけでなく、アンもマリラを躾けている。
マリラは率直に認めているが、バリー夫人だったらこうはいかなかったかもしれない。
- it doesn't seem as bad as the other would have been
- the other(逆の嘘)の意味は、訳書によって書かれていなかったり異なる解釈だったりするが、
たぶん「ブローチを取ったのに取らないという嘘」で良いだろう。
- That child is hard to understand in some respects
- この点はたぶんずっとこのままなのだろう。
マシューはアンと気が合うので喋らなくても話が通る(18章)。
マリラとマシューの差である。
- I believe she'll turn out all right yet
- 10章のリンド夫人の言葉She may turn out all right.と同じ。
マリラもレイチェルと同じ視点に近づいてきた。
- no house will ever be dull that she's in.
- dullなのはアンが来る前のグリーン・ゲイブルズのこと。単調で停滞していた。
[和訳]
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osawa
更新日:
2002/12/07