モスクワ行きの列車が行き交うマスコフスカヤ駅には早めに付いたが、 23:35発の列車がまだ来ない。 何だろう、遅れや、車両故障でも起きたのだろうか。 電光掲示板には、5番ホームに来る筈なんだが、 5番ホームに来ているのは別の列車だ。 電光掲示板を見ると、23:35 に7番ホームとあるので、そちらに行く。 出発直前になっても列車は来ない。 すると、近くの人が妙だなと思ったのか、「切符を見せてみな」と言った。 見せるとすぐ、「ここじゃない。あっちだ」と教えてくれた。 慌てて、ホームのアナウンス通り5番ホームに走る。
サンクト・ペテルブルクのマスコフスカヤ駅には、 5番ホームと、5番左ホームの2つがある。 しかも、それが隣合っているのではなく、距離が離れている。
電光掲示板の 23:35 7番ホームとは、到着列車の方だったのである。 道理で、出迎え客ばかりの7番ホームに、 1人だけ電車に乗ろうとキョロキョロしている変な奴がいたので、 不慣れそうな外人だったので、もしやと思って、 「切符を見せてみな」と声をかけてくれたのだろう。 後悔後に立たずであるが、 今まで旅行が随分と順調過ぎると思っていたのだが。 大ピンチである。
Kacca No.2 で切符を払い戻す。結局、洗い戻されたのは、
ロシア人料金の半額の150Rだった。
そして、外国人は Kacca No.42 で切符を買う。
値段が何と898ルーブル!
しかも、午後出て、モスクワに夜中に付く列車しかない。
朝出る列車か、夜行は無いのですかと聞いても、
外人を乗せる列車はこれしか無いようだ。
ロシア人向けの列車は、実は沢山出ている。 ロシアの国鉄が、外人を乗せたい列車は、 英語のアナウンスなどがあったりする、上等列車であるここで、ロシア人様の列車に乗せろと主張しても意味がないので、 「明日の切符が無いよりはマシだろう」と仕方無く思ったが、 こんなに沢山のルーブルを使うとは思っていなかった。 有りルーブルを出して切符を手に入れる。 残りは 30R 程しかない。
駅に不良ガキがいて、「1ルーブルくれ」などと言ってくる。 無視したら、外国人だと気が付いて、今度は英語でくれと言って来た。 金を貰えずに悪態を付くガキを無視して通り過ぎる。 こんな夜中に外にいる様な人間って、変なのもいるな。
しかし、午前1時で、地下鉄はもう動いていない。 30R ではタクシー代になるかどうか怪しい所だ。 まあ、ロシアで地下鉄の駅2つなら、そうたいした距離ではない。 そこで覚悟を決めて歩くことにする。 しかし、さっさと歩かないと、跳ね橋が上がってしまう。 それにしても、夜行列車に乗り遅れたのがサンクト・ペテルブルクで良かった。白夜なので、あたりはまだほの明るいからね。
さて、川に着いた。方角が若干右にずれていた。慌てて橋に向かう。 しかし、無情にも橋が上がり出した。 Time is up! Bridge is lift. さて、ユースに戻る道を閉ざされた私は、 運河や橋や行き交う船を見に来たんです、というフリをして、 早朝まで運河の堤防で粘る事にした。
モーターボートで運河を走っている若者グループがいた。 事情を話して、少しお礼を払ってでも、 向い岸まで乗せてもらおうかと思ったが、 彼らの行状にいささか不安があったので、 ちょっと様子を見ていた所、 彼らはボートを満足に操縦できないにも関わらず、 河べをメチャクチャに無謀運転して遊ぶボート暴走族であった。
夜中の2時に女の子が沢山遊んでいるのには驚く。 まあ、日本にもそういう場所はあるが。 酒を飲んで、ギターと歌で盛り上がっているグループがある。 時間が過ぎるのをじっと待つ。 運河を渡る風が冷たくなってきた。 寒くて耐えられなくなり、4時で運河を去る。 昨日歩いたマルス広場の火で身体を暖める。 ベンチに座っていたが、 ここは運河と違って変な連中は居ない様子だったので、 つい横になって休んでしまう。
「酔っ払いか? 違法な麻薬は持っていないか? パスポートは?」 と聞いてくる。身体検査をし、荷物を全部調べ、 「なぜここにいる?」と聞く。 「列車に乗り遅れた」と言うと、別の警官が 「乗り遅れたと言っているのに、切符の日付が今日なのはなぜか」と聞く。 ロシア語で懸命に「それで、新しい切符を買ったからだ」と答える。
そんなものは、判り切った事だろうが、私がロシア語で説明できなければ、 嘘つきの不審者、という事にするらしい。
しかし、私がパスポートやビザを所持しており、 夜行に乗り遅れたために翌日の切符を持っている人間が公園で休んでいた事を理由に罪に問う事はできないらしく、放免してくれた。 散乱した荷物をまとめていると、 ない! ポケットの中の20ルーブル札がない! 切符を買った時、残りが30ルーブルとコインだけになってしまい、 これでは、水と、パンと、あとは安い所で紅茶が飲める程度かなと思っていたが、 財布の中の10ルーブルしか残っていない。 警官が、身体検査をしてポケットに手を突っ込んで調べた時に持っていったんだろう。
財布は持っていかず、発見を遅らせるあたりは、さすがプロの警官である。頭に来たので、事の次第を旅行日記に書き記していた。 約1時間後、また見覚えのあるパトカーが来た。 さっきの警官達だ。今度は2人だった。 そして「何を書いているんだ? 爆弾は持っていないか? サリンは隠し持っていないか? テロリズムは、駄目だぞ!」などと言って、 さっき全部ひっくり返した私の荷物にまた手を突っ込んで調べ出した。 若いほうが、私の身体を検査する。 脇腹をモミモミされてくすぐったいのでゲラゲラ笑っていると、 年輩の方が「もう許してやれ」と言った。 カメラを指して、「これは爆弾じゃないのか!」と追及される。 アホかと思ったが、もう1人の年輩の警官が、 本当にカメラなのかとしつこく聞くので、 「それなら写してみようか!」と言うと、 それならいいとの事。
実際にシャッターを押させてカメラ型爆弾ではない事を確認するというなら、 まだ筋道は通っているのだが。何だ、そりゃと思っていると、 若い方が、やっている行動からは信じられないような素晴らしい台詞を言う。 「公園の安全は我々が守る。お前は、行け。ホテルに帰って、寝ろ」と。 何を言ってやがる、お前らなんか、 居ない方がよほど治安が保たれるわいと思った。 年輩の方が 「マヤコフスカ駅だ。分かるか? 向こうの方角だ。そこで列車に乗れ」 との事。ゴロツキ警官の割には親切な事を言うなと思っていたら、 ああぁ! フィルムがない! 昨日、荷物を詰めた時、確かにフィルムの 箱に10本キッチリ入れたのに、見たら、箱が乱暴に破り開けられ、 フィルムが6本しかない。
バカヤロー! 予備フィルムならまだしも、 写した大事なフィルムを2本も持っていくんじゃねー! どうせ、使えないんだぞー バカヤロ〜! どうも、年輩の警官が、「本当にカメラなのか」と聞いて、 気をそらされている間に、若増の方がフィルムを持って行ったんだろう。 ここでも、10本全部持っていかず。約半分だけ持っていって、 発見を遅らせるあたりは、さすがプロの警官である。
ロシアでは庶民がフィルムを、 しかもカラーフィルムを買うというのは、 昨今の経済混乱の中ではかなりの「贅沢」らしい事が NHKのロシア語講座のテキストから判る。 よって、フジの36枚撮り4本というのは、 結構「盗みたくなる」獲物なようだ。 こんな所で多額の現金を持ち歩いていたら、危険極まりないかもしれない。
私は考えた。この事を、 サンクト・ペテルブルクの日本領事館に伝えるべきだろうか。 もちろん、20ルーブル(1ドル弱)とか、フィルム4本を、 警察に盗まれたから、警察に盗難証明を書く様に領事としての力を行使してくれとか、 そういう事を言っても仕方無いが、他の旅行者に、注意を促してくれれば、という事で。
でも、まあ、ゴロツキ警官に付け入る口実を与えさせないという点では、 公園で寝たのはまずかった。日本でも、公園や道端で寝ていると、 警官から不審尋問されてもしょうがないからね。 まあ、外務省から「注意喚起」が出されているし、 警官が旅行者にたかる国だと知った上で来たんだし。 ちょっと、今まであまりにも全てがうまく行き過ぎて、 自信過剰になってしまったのかもしれない。 でも、 KAIF で情報を仕入れていたので、 落ち着いて対処できたから良かった。 それにしても、 ゴロツキ警官がネックポーチの内側の60ドルに気が付かなかったのはラッキー と言う他無い。これが、T/Cもろともやられていたら、 かなり面倒な事になった。それにしても
バカヤロー、大事なフィルムを返せ〜
追記:帰国してフィルムを現像した所、 警官に盗まれたのは未使用フィルムだと判った。 さすがはプロの警官なので、使えないフィルムを盗むほどドジではなかったようだ。
それにしても、2回もゴロツキ警官にやられて、20ルーブルと フィルム4本で済んだのは、奇跡とも言える幸運だったというか、 そんな物しか盗られる物を持っていない私もすごいというか。それにしても、列車のホームを間違えるというドジをやらなければ、 「夢のようにメチャクチャ楽しいロシア」で終わっていただろう。 ある意味では、貴重な経験をしたとも言える。 何だか、ロシアの裏側も知ることが出来たような気がする。
いや、自分を誤魔化すのはよそう。今回の顛末を冷静に考えると、
夜中に外で1人で行動しても安全な国や地域は、ほとんど無い。 ロシアも例外ではない。
こんな理不尽な行為に応じる必要はない、 断固抵抗すべしという意見の人もいるとは思うが、 とにかく、こいつらは拳銃を持っているので、 逆らったらパトカーで郊外の森の中に連行されて、 ズドンとやられる可能性があるので、逆らわないほうが賢明だと思う。 私の考えでは、私の命は、20ルーブル(1ドル弱)とか、フィルム4本よりも貴重である。 ただ、こういった状況であなたがどう対処するかは、あなたの自由だと思います。
この話をすると「偽警官ではないか」という意見の人もいましたが、 私の考えでは、偽パトカーまで作って旅行者から金を巻き上げても割に合わないと思います。
サンクト・ペテルブルクで一番、見る価値があるのは、 やはりエルミタージュであろう。よって、また行く事にする。 ルーブルがないので両替しないといけない。 銀行でもよかったが、エルミタージュの近くに高級ホテルがあった。 ちょっと、この格好では入るのに気遅れするが、 入口で、銀行で両替していいかと聞いて、入れてもらう。 ここで20ドルだけルーブルに替える。
これですこし現地通貨が手に入ったので、 やっとミネラルウォーターが買える身分になった。 今日はとても暑い。ミネラルウォーターのキャップをあける。 ドバッと水が吹き上げる。 そう。わざわざ炭酸を入れて、挙げ句、暑い日はガスが活発に発生するので、 ひねった途端に周囲に水を撒き散らすのである。やれやれ。
エルミタージュは開く前に行ったが、もの凄い行列で、 建物の外まで人が並んでいる。写真に撮ろうかと思ったが、やめた。 行列の脇で、トランペットを演奏し、幾らかの収入を得ている者までいる。 列の中でミネラルウォーターのキャップをあけ、 私と同じ事をして叫び声を上げている客がいる。 中国人の団体も来ているようだ。 やはり、東洋人は故国では炭酸入りのミネラルウォーターなどよりも マシな水を日頃飲んでいるので、不慣れらしい。
しかし、時間になったら一気に列が進んだ。 しかも、カッサは前回来たとき、比較的列の短い4番に並んだので、 すぐ買えた。それに、前回は軽食を手に入れるのに50分かかった ビュッフェも、ちゃんと 11:30 頃に行ったので、全く並ばずに済んだ。 もちろん、サラダは注文しなかった。 なんというか、エルミタージュに「慣れた」様である。 中で絵画を存分に楽しみ、 時には混雑する時間帯を過ぎたビュッフェで紅茶を4R(20円)で飲んでくつろぐ。
エルミタージュの眼前にはネヴァ川が広がる。天気は快晴。 とても美しい光景だ。 昨日は、また何時かサンクト・ペテルブルクに来たいと思っていた。 でも、今日は予定外にサンクト・ペテルブルクに滞在し、 見逃した名所をほとんど見て(オーロラ号は見ていないが、 まあそれは大した船ではないだろうから) エルミタージュもまた見た。 「これだけ見れば、もうここに戻らなくても充分だよね」 と自分に言い聞かせている。
嫌な思いをした事が、私の心境の変化にどの程度関与しているかは、 私自身分からない。 もっとも、4日滞在して観光名所を見尽くしてしまったので、 また来ても新鮮味が無く、 これ以上はただ滞在しているだけも同じになるのは事実。また駅に来て、今度こそ間違えないようにモスクワ行きに乗る。 さて、サンクト・ペテルブルクのマスコフスカヤ駅では、 女性の車掌に切符を見せるのだが、 見せると切符を取られてしまうので、自分の席が分からない。 席は切符に印刷してあるので、見ればいいと思ってメモしていなかった。 ドジは1晩の教訓では完治しないのである。 客は次から次に来るので、車掌は持ち場を離れる訳にもいかず、 「ちょっと待ってなさい」と言われしまう。 ロシアでは、夏休みに子供が親の職場に行き、 社会勉強を兼ねて親の仕事の手伝いなどもするらしい。 車掌の息子とおぼしき少年が、手伝いをしている。
そういえば、昔アエロフロートのパイロットが、 子供にOJTで操縦させてエアバスが墜落した事があった。 それに比べれば、列車の発車前に子供が親と共に切符のチェックや、 客の案内をする程度なら、惨事につながる恐れはないので安心して 「ロシアの伝統なんだろう」程度に思うことにする。
さて、この息子の車掌補佐に案内してもらって席に着くと、 婦人が既に座っている。そして私に「席を替わってくれ」と言う。 息子と一緒にすわりたいからとの事。 車掌補佐は、「それは駄目だ」と言っているのだが、、、 いや、私はどうでもいいのだが、 外国人として旅行しているのに、 ロシアの列車規則を破ってまで席を替わりたいとは思わない。 替わってもいいなら、替わってあげるが、 車掌が替わる事を認めないなら、替れないじゃないか。 結局、私は私の席に座る。
しばらくすると、息子が来た。そして、 「ママと座りたいんだ」と言う。 いや〜、、、ちっちゃい子が母親と一緒に座りたいなら分かるが、、、 二十歳は越えた青年である。ロシアでは、家族の絆は固いのだと分かる。 「いや、車掌がいいって言えば替わってもいいけど」と言うと、 しばらくして、婦人が「いいって言ったわ」と言う。 多分、嘘だろうと思ったが、 少なくとも、この婦人が車掌に釈明するだろうからもういいやと思い、 隣のコンパートメントに移る。
さて、しばらくすると、車掌の息子が、後ろのコンパートメントで、 「あの外国人に何を言ったんだ!」と怒って、 案の定、例のママが釈明している。 常識的には、ロシアでは切符に席も乗客名も印刷してある以上、 席を替わるには車掌の許可が必要だろう。 しかし、その「車掌補佐」が駄目だと言っている以上、席は替われない。
私が、外国人を乗せる優等列車しか乗れずに、 ロシア人の何倍も運賃を払わざるを得なかった事と、 元々の私の席は進行方向の窓際で景色が良く見える席だった事は、 偶然では無いように思えた。 それで、車掌補佐は怒っているのかもしれない。
しかし、なんとなくこっちのコンパートメントの方が善良そうな人が多いので、 (見かけで判断するべきではないが、昨日は悪人を多く目にし過ぎたので) こっちに落ち着く事にする。 発車する前から色々あるね。
教訓:暑い日はミネラルウォーターは爆弾に変わるので注意しよう。
これにノズル付けたらペットボトルロケットになるんじゃないかな。
列車の中では、隣の先生とずっと話しをしていた。 モスクワのいい本屋を色々教わる。 さすが先生だけあって、かなり専門的な本屋とかも詳しい。 地図を書いてもらって、行き方も教わった。 しかも、彼女はまれに英語を話す。 もっとも、私がロシア語があまり通じないので、 意志疎通が出来ない場合、苦し紛れに英語を話すのだが、 彼女の英語も、私のロシア語並に役に立たないので、 せっかく英語で質問してくれても、 私が英語で答えでも、彼女は理解できない。 それで、彼女が時折英語で質問しても、 私が乏しいロシア語で答えた方がまだ通じるという、妙な具合だった。
しかし、とにかく、彼女は、私のロシア滞在中、 ホテルの受付以外で、英語で話し掛ける事を試してみた、 極めて例外的な存在であった。
さて、1010号室で同室になったのは、 イギリスのオカマちゃんと、もう1人である。彼の国籍は、忘れた。 このイギリス人なんだが、男性なのに、 背中の大きくえぐれた、黒いセクシー(?)なワンピースなどを着て、 髪は背中の真ん中に届くぐらい長く、声もちょっと変で、 女性ホルモン注射とかしていそうな気配だった。 う〜ん、、、こういうのと相部屋かぁ。 夜中にAIDSとか移されたら、悔いが残るなぁ。
私は同性愛者と相部屋になどなりたくないと受付に文句を言って、 部屋を替えてもらうことも可能だが、 証拠も無く他人をオカマ呼ばわりしたのでは非礼であろう。 もっとも、証拠を得た時には、 取り返しがつかなくなっているかもしれないが。寝巻等は当然無いので、旅行中は下着で寝ていたのだが、、 一瞬、ズボンでも履いて寝ようかと思ったが、 まあ、もう1人いるし、彼はまともそうなので、 大丈夫だろうと判断し、暑いので、いつも通りパンツ1丁でベッドにもぐり込む。 それにしても長い1日だった。