次へ| 前へ| 目次     Last modified: Wed May 23 10:33:59 2001

ええい、行っちゃえ!

旅行は楽しいが、旅行準備は楽しいとは限らない。 以前にもあったパターンだが、旅行を可能とするために、 休暇前に会社の仕事に区切りを付けないといけないのだが、、、

以前の旅行の際は、その前に睡眠不足状態が1週間ぐらい続いて、 ロンドンに到着するなり3日は蓄積した疲労と睡眠不足、 時差ボケでまともに観光できず、 何のための来たのだろうかと思う有り様だった。 エジプト旅行の時も、忙しくて荷造りが出来たのは出発日の午前3時だった。

今回は、その轍は避けたいと思い、早めに準備を始めたのだが、 何せ休暇開始1週間前の段階で、ビザが本当に取れて、 ロシアに旅行できるのかどうかが危ぶまれる状態だったせいか、 ロシア語学習や、ロシアのガイドブックを読む点で力が入らなかった。 幸いビザが取れ、 準備にスパートを掛けようとした矢先に担当機種がトラブってしまい、 連日帰宅が遅くなり、準備・・はまだしも、ロシア語学習や、 ロシアのガイドブックを読むどころではなかった。 「本当に、旅行に行けるのか?」これが、今回の旅行の基調であった。

極め付けは、木曜日は午前から対策に協力し、午後・夜も仕事をして、 徹夜して、翌金曜日も午後3:45まで通しで仕事。 その間、寝たのは30分。

だいたい、旅行準備がまるで出来ていないので、当然買物等もできていない。 ここの所、帰れる時間帯には店は閉まっていたのである。 よって、ロシアに着ていく服がないとか、履いていく靴が無いとか、 我ながらこの悲惨な境遇に悲しむばかりである。 仕方無く、仕事に着ていっているシャツを洗い、 アイロンをかけてハンガーに吊す。 着替えの下着も、洗って乾かさなければ持っていく物がない。 身体はまだいいのだが、心臓が「休みたいよぉ」と悲鳴を上げているのか、 時々胸がズキッとする。これではロシアに行く前に果ててしまいそうである。 部屋を片付けたり、荷物を準備して、水シャワーを気合いで浴びる。

ガスの火を制御する電子装置が故障しているのだが、 ここ1週間は帰って寝るだけなので、修理の手筈を整える、どころではない。 夜中の2時にでも来てくれるサービスマンでも居れば可能かもしれないが。 それで、「どうせ今は夏だ。それにロシアに行ったら、 ホテルでもお湯が出るとは限らない。今から予行演習だ」と言い聞かせる。 しかし、さすがに冬だったら、気合いではどうしようもなかったであろう。

準備を続けるが、なにせガイドブックも無いのだからお笑いである。 一体、これで私はロシアで何を見ようというのか。 詩人のマリーナ・ツヴェタエーヴァの家 (当時のままに保存されているらしい)を見学したいと思っていたが、 チェーホフやゴーリキに比べると、ずっとマイナーな所なので、 所在地を調べる事も出来なかった。

こんな状態なので、旅行準備は満足には程遠い状態だが、 しまいには「ええい、行っちゃえ!」と開き直る。 パスポート、ビザ、T/C、航空券はあるんだ。 極論すれば、これさえ有ればいいんだから、、

朝、気合いで6時に起きて、干しておいたシャツや下着を詰め、 ロシア語の勉強をして(今さらやる事も無いか、と思った) 買っておいたパンは食べる間もなく、冷凍庫に直行。 紅茶は2口飲んで捨て、家を出る。バスに乗るのは久しぶりだ。 土曜日なのでバスはスムーズに走る。 (渋滞したら乗り遅れて旅行がパーだが) 7:20 頃、家を出たのだが、遅くなってしまった。 小田急は途中で座れたので、泥睡して、新宿からは中央線で秋葉原へ。 久しぶりに秋葉原に来て、乗り換えホームでまごついて(やれやれ) 思い出の上野から京成へ。なに、空港まで1000円! たまに乗ると、その度に値上がりしているとは思っていたが、 以前は570円ぐらいだったじゃないか。 空港まで特急で74分。結構かかる。

注:

空港で

第2ターミナルに着いたのは11時。出発まで1時間しかない。 米ドル現金に両替しないといけないので、あせってしまう。 さて、探してもアエロフロートのチェックインカウンターなどは無い。 コンピューター画面の案内なども見たが、該当する物が無い。 やれやれ、自前のチェックインカウンターも無いのかと思って、 案内に聞く。するとフライトナンバーを聞かれ、 それならDカウンター(JALのカウンター)だとの事。 案内に聞く以外に知る術が無いとは。 もう少し、判りやすく表示等をしてもらいたいものだ。

ボーディングパスを取りに行くと、出発が13:05に延びている。 遅れたわけだが、実はありがかたっかりする。 喫煙席から離れた席にしてもらい、駄目元で窓際をリクエストしたら、 なんと格安の券なのに取れた。

少し時間に余裕ができたので、コンビニ(地下にある)に行き、 予備のボールペンを買う。それにしても、空港内の洒落た店より、 旅行者がほとんど来ない(客は空港で働いている人が大半)コンビニの方が気分が落ち着くのは、 私の経済感覚を反映した物だろう。
地下のトイレは利用者も少なく、お湯が出る。ラッキー! お湯が出るなんて、 何て文化的なんだろう。嬉しくて、洗顔と歯磨きまでやってしまう。 (機内ではさすがに無理だろうから)
4階に行って本屋を探す。ロシア語の本だけ買う予定だったが、 ページが少ない割に1480円もする。これなら大差無いと思って、 地球の歩き方のロシア編を買う。これで荷物が増えた。 それにしても、モスクワに行ってから、 ホテルで1〜2時間もかけて地球の歩き方を読んで、 明日はどこに行こうかなんて計画しているようでは時間がもったいない。

本来、こういう物は旅行前に買って、何度も読んで頭の中に叩き込み、 見所を選んで、製本をバラして穴を開け、 必要の無いページは置いてくると軽い。 旅先で役目の済んだページは捨ててさらに軽量化を図る、 のが私の旅行術なんだが。
さて、両替して余った6円は寄付箱に捨てて、これで日本円は全然無し。 葉書でも書こうかと思ったが、もう集合時間(30分前の12:35)が迫っている。 のんびりし過ぎているのか、時間はあればあるだけ使ってしまう傾向がある。 慌てて出国の方に行き、正々堂々と金属探知機の柱の真ん中を通って、 「さあ、調べるなら調べてみろ」とばかりにグリコのポーズを取ったら、 「こっち!」と係員に怒られる。ふと上を見ると、 どうやら私は2台ある金属探知機と金属探知機の間を素通りしたようだ。 通れないなら、通れないようにロープでも張っておけってんだ、 紛らわしいじゃないか・・・なんて事はないか。
自分では旅慣れていたつもりなんだが、 もう5年もブランクがあるので、すっかりボケている。 旅慣れているという想いから来る過信と、現実のギャップが、 後々響く事になるとは、この時点では知る由も無かった。
さて、ゲートD94は、第2ターミナルの、さらにサテライトの方にある。 滑走路が1本しか無いのに、 こんなに遠くまで、ターミナルのビルだけ建て増ししてどうするんだろう。 飛行機の到着はさらに15分遅れた。 腹ペコだが、機内食を当てにして我慢する。 さて、このフライトはモスクワ経由ロンドン行きなので、 客の多くはロンドンまで行くみたいだ。


友人が成田で撮影したアエロフロート機。

機内で

中に学生とおもわしきグループが乗っており、 はしゃいでうるさい。大貧民で盛り上がっている。 後ろの席の男子学生は、バンドでもやっているのか、 前の席の私の背もたれをバンバン叩き続ける。 これではたまらないと思って注意したら、 「エー、迷惑がかかるなんて、思い付きもしなかった!」みたいに 呆然とした顔をしている。歳は19ぐらいであろうか。 他人に迷惑をかけてはいけないとは、学ばなかったようだ。 しばらくしたら、またやり出した。ここまで来ると、根性である。

アエロフロートで面白いのは、非番の操縦士が、 パイロットの服を着たまま客と一緒に移動している事だ。 (離陸時にキャビンクルーがその辺の空いた席に適当に座るのも特徴) キャビンクルーの控え室に近い一番後ろの席で、 他の客よりはるかに多くのアルコール類がテーブルの上にあって、 すっかり出来上がっている。 あれで実は「勤務中」で、「移動手当」とか貰えるのかな。

オーリガ、座りなさい!

前の席にロシア人母娘が座っているのだが、 わざわざキャビンクルーが「女の子は胸に抱きなさい。 席に座るなら、2人分払いなさい」などと、いらない説教をしている。 それなら、隣の、 4人分の席を占領して毛布掛けて寝てる女の子を注意すればいいじゃないか。 前の女の子は、愛らしい顔をしているが、 (この子が後ろを向くと、 後ろの学生グループの女子達が「可愛〜い!」と騒いでうるさい) そのうち大きくなって、 隣の女の子の様にふてぶてしくなってしまうのだろうか。 歳は18ぐらいだろうか。栄養状態は良好な様だが、、、

さて、前の席のちっちゃい子は、 母親が呼びかける所によると名前はオーリガちゃんで、 飛行機の長旅に飽きたのだろうか、機内狭しと大暴れである。 具体的には、母親が脇を見ていると、 椅子の上に立って、ナプキン状のシートカバーをペリッとめくって、 カバーをパタパタとウチワの様に振り回し、 後ろの私の方を「攻撃」してくる。 母親が注意して、ごめんなさいと謝っても、 しばらくすると目を離した隙にまたやり出す。 いや〜、カバーを振り回すのが、 そんなに夢中になれるほど楽しい遊びだったとは知らなかったが、、、 子供は元気なのが一番だが、この子はえらくパワフルだ。 特に、食事中に母親が席を立っていた間の攻撃は凄まじかった。 好き放題にカバーでピチャピチャと連打される。 「お嬢ちゃん、座りなさい。座りなさいってば!」と言っても、聞かない。 周りの乗客は爆笑している。 どうしたらいいんだろう? この子、ロシア語が通じない! まさか、 他人の子をひっぱたいて「しつけ」をする訳にも行くまいし。
ついに防御しきれずに、デザートのプリンが被害に遭った。 食べ物を台無しにするとは、なんて子だ! まだ3分の1ぐらいしか食べていなかったのに、、、(;_;)
やっと正義の味方である母親が救援に駆けつけ、私に御免なさいと謝ったが、 「いえ、おかまいなく」という程度の意志表示しかできなかった。

もし今言うなら「ヤ ドゥーマユ ヴィ ニムノーシュカ ドーブラヴァ?」 あたりかな、、、後知恵だけど、
おかげで、退屈しないで済んだが、 なんとなく、とても愛らしい子なので、 親もあまりきつく叱れないのではないかなと思った。 でも、可愛いからといって甘やかすと、後で苦労しそうである。

周りのうるさい学生達は、ロシア語をやっている学生な様だ。 まあ、ロシア語のレベルとしては、英語で言えば中学1年の6月並。 もっとも、英語も誰も喋れない。ところが何と引率の先生が居た。 グループとして統率されているというより、 好き放題にやっているという点では、オーリガちゃんと大差無い。 「写真をいっしょに撮っていいですか」とロシア語で何と言うのだろうと、 みんなでああでもないこうでもないと議論している。 ちなみに、正解者はゼロ。 挙げ句、面倒だとばかりに、 何も言わずにオーリガちゃんをひったくるようにしてガバッと抱き抱え、 仲間に向かって「写真に撮って!」とか言っている女学生がいる。 おいおい、お前は人さらいか? 母親がびっくりしているじゃないか。ロシア語で意志疎通をしなさい!  一体、何のためにロシア語習っているんだか。。。

入国

飛行機を降りてパスポートコントロールは長い列。 どうやら、ビザの番号をコンピュータで検索して、 偽物でないかをチェックしているらしい。 次は税関である。 外貨申告の用紙が、ロシア語とハンガリー語とフランス語の物しかない。 物不足もここに極まれりといった感じだが、 諦めてガイドブックを見ながらロシア語の申告用紙に記入。 税関の列はなかなか進まない。やっと次は私の番だと思ったら、 直前の人が引っかかって「大捜索」になってしまった。 待てど暮らせど終わる気配がない。 さっさと見切りを付けて、別の列に並び直した人の方が先に終わっている。 この人さえ終われば、、、と思って粘ったが、ついに諦めて別の列へ。 すると、「大捜索」が終わった。すると、なんと並び直した私の列で、 また直前の人が引っかかった。 荷物は全部チェックし、財布の中のお金まで出して数えている。 ひたすら耐える。やっと私の番だ。フィルムはX線を免れるために、 試しに手持ちで通ってみた。別に文句は言われなかった。 さて、なぜか係員は、私の税関申告用紙は見もしない、 お金を数える事もしない、荷物の中を見もしない、 それで済んでしまった。 これで本当にいいの? と思ってウロウロしていると、 「いいのよ。行きなさい!」と言われる。この差は何だ?

ルーブルが無いだって?

空港の両替所に行った。何と、「ルーブル ニェット」の札が出ている。 私の前のロシア語が上手な日本人女性に、一体どうしたのですかと聞くと、 ルーブル札が尽きてしまって両替できないらしい。信じられない。 そばに変なおじさんが居て、両替してくれるとの事だが、、、 「グルじゃないのか?」と思った。 ルーブル札なんか見なれていなので、デノミ前の屑札を渡されても判らない。 しかし私は地下鉄の駅までバスで行く必要があるので、 どうしてもルーブルが幾らか無いと困る。 ロシアは、カードが駄目、T/C が駄目とは聞いていたが、 米ドル現金まで駄目とは思わなかった。 ロシアはそんなに外貨が有り余っていて、 ルーブルの方が不足していたとは知らなかった。 確か、外国からの借金を返せなくなったので通貨危機が起きたし、 ルーブルなんて、沢山刷り過ぎて昔デノミをやったぐらいなんだが、、、 今は土曜の夜だし、今日は両替客が多かったのか? それで、駄目モトでクレジットカードでキャッシュアドバンスをやってみる。 本当は日本で「練習」しておきたかったんだが、それをする時間が無かった。 ぶっつけ本番で、9回2死満塁で、ルーキー登場といった所か。 やってみる。暗証番号は間違っていた! しかし、やり直したら、100ルーブル札が3枚出てきた。 まるでマンガの世界だ。 ちなみに今日のレートは 1$=123.25円で、1$=23 ルーブル。

バスで市内へ

バス停はこの写真のちょうど真ん中ほどにある。
悪名高い空港前のマフィア白タクシーは無視してバス停を目指す。 しかし、空港前が工事していて、 以前旅行して見覚えがあると思っていたのだが、 バス停が見つからない。探してもわからず、焦ってしまう。 そこでロシア人に「スカジーチェ、グジェ ナホズィッツア アフトーブシェ ザ レチノイ バクザール?」と聞いて、教えてもらう。 結局、「え、こんな所、通っていいの?」的な、 工事をやっている所の真ん中を通れば空港のすぐ前だった。 バス停であたりを見たが、切符売場らしき物も、 切符を売っていそうなキオスクも無い。 さて、551番のバスは1時間に3本だが、もう来ていた。 そこですかさず乗り込み、運転手に切符はどうするのかと聞く。 どう見てもロシア人には見えない顔つきの運転手だったが、 (まあロシアは多民族国家だから別に構わないのだが、 ウズベク人風だった)「コンダクトール!」と2回、指示した。
コンダクター・・・指揮者・・・ああ、車掌か! と思って車内を見ると、 鋭い目つきで、乗客より立派なワンピースを着た女性が居た。 声を掛けると、4ルーブルとの事。100ルーブルを出すと、 もっと小額紙幣はないの? と言われる。 乗客まで、「額が大きすぎるわよ」と笑っている。 そんな事を言われても、空港で両替が出来ず、 100ルーブル札を引き出す事しかできなかったのだと無実を訴えたかったが、 私の語学力で演説するのは無理である。 車掌からは「しょうもない旅行者ね」みたいな顔で見られた挙げ句、 「こんなドンくさい客は後回しね」とばかりに、他の乗客の方が優先され、 やっと私の番が来て、100ルーブル札で切符を買えたのは、 もう次の停留所に着く頃だった。
でも、疾走するバスの中から見るモスクワの景色は、悪くない。 でも、むしろ乗客を観察している方が面白い。 確かに、ロシア人は金髪の人は少ない。 黒っぽい髪の人が多い。 再び街中に目をやると、建設中のビルや、クレーンを良く目にする。 あまり、通貨危機とか、経済不振は感じられない。 日本も不景気だと言いながら、 救い様の無い国になったわけではないのと同様なんだろうと思った。

レチノイ バクザール(河の駅、の意味)に来る。 以前は地下鉄はジェトン(専用のコイン)で入場していたが、 今ではカードも使える。ロシア語で何て言えばいいんだろう? 窓に料金表が貼ってあって「10回乗車30ルーブル」などとあるので、 それを読み上げ、30ルーブルを渡す。 ボール紙にカセットテープを切って貼った様なカードだ。

それにしても、来ていきなりロシア語でバス停を教えてもらい、 地下鉄に乗って、一発でホテルまで行くなんて、 今までのトラブル続きを考えると大したものだ。 ベラルースカヤ駅で乗り換え、プロスペクト・ミール駅でも乗り換え、 リーシスカヤ駅で降りて、TGHまでの道を歩いていると、 なんだか故郷に帰ってきた様な気がする。 見慣れた街並み。5年前は、モスクワ滞在も3週間程だったからね。

ホテルで

TGHに着くと、もう10時を回っている。受付かと思われた場所に人は居ない。 そこで廊下を歩いていると、日本語が聞こえる。そこで受付はどこかと聞く。 結局、バウチャーはホテルの予約を全然意味しない事が判ったが、 幸い部屋が空いていて $18 で泊まれた。日本人と一緒の部屋になり、 情報交換する。 1人は今からサンクト・ペテルブルク行きの夜行に乗りに行った。 後の2人は夜中にディスコに行った。 私は、こんな夜ではあったが、食料品が欲しかったので、 プロスペクト・ミール駅周辺ならあるだろうと見当を付け、買いに行った。 そこで小じんまりとしたキオスクの様な店が開いていた。 そこで、水とバゲットと紅茶を買った。 もっとも、見たら、それはティーバッグではなく、リーフだった。 まあいいか。安いから。 部屋に戻ってパンと水を胃袋に入れる。 何だ、ガス抜きくださいと言ったのに、ガスが入っているじゃないか。 まずいが、我慢して飲む。 今日はシャワーを浴びて寝る
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